刺客

□刺客♯番外編
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(『刺客』の桐壺更衣[ヒロイン]が内裏を抜け出す際に、今上帝から承った猫を一方的に預けようとしたその後の話)



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「あら?猫?」

ミャアーと鳴く声に意識をとられ、御簾を上げてみるとそこには一匹の小さな猫がいた。

それに気付いた帝付きの女房は、思わずその猫の可愛さと見覚えがある感覚から抱き上げた。

「あら?なにかしら。」

ふと、猫の首に巻いてある紙らしきものに目がうつる。

「誰かのいたずらかしら?」

そう思った女房は、それを取ってあげると、猫は女房の元からサッと離れ、どこかに行ってしまった。

「これを取ってほしかったのね。
あら?」

紙に見ると、墨の跡があったので、何か書かれているのではないかと、彼女はその折られて細長くなった紙を広げてみた。

「…文字…かしら?」

彼女にとっては、文字というには難しく、また見たことのない形だった。だからよく見ずに、猫に巻いてあったことから誰かのいたずらだろうと思ってしまった。


「紙の処分はあとでいいわね。」






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「帝、一つよろしいでしょうか?」

帝の着替えを手伝っている際に、先ほど猫を見つけた女房は口を開いた。普段は黙って作業を進めているので、何かあったのかと帝は視線を向ける。


「失礼ですが、以前唐からの贈り物の子猫はどうなされましたか?」


猫という言葉に、帝は猫を抱いて喜んでいる桐壺更衣の姿を思い浮かべた。


「桐壺更衣が親さ。」

にこやかな顔で返事をする帝に、女房は一瞬見惚れてしまうが、慌てて手を動かした。

「実は先程その子猫に似に猫を見かけまして、ちょっと気になったものですから…。」

「ほぅ。
(相変わらず、この辺をうろついているのか。そういえば桐壺更衣がいた時もよく逃げ出して、更衣が捜していたなぁ。)」

不意に帝が小さく唇を上げて笑った。

「なにかございましたか?」

先程と違う顔つきになった帝に気付いた女房は、子猫になにかあるかと思い尋ねる。


「いや、なんでもない。猫は大丈夫だ。さぁ、大臣たちがお待ちかねだよ。」


帝がそう言うと、ちょうど支度が整ったらしい女房は礼をして帝から離れた。


「(悪戯のことを申し上げてないけど、いいわね。たいしたことでもないし…。)」


そして一度帝をぐるりと見て、きっちりと着ていることを確認してから彼女は退出していく。



例の手紙らしき紙を持ちながら…。






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