6万打記念小説

□一つの教訓
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目の前にとても美味しそうなモノがあります。


奇しくも腹がとても減っており、その食べ物はまるで食べてとでも言いたげにゼロスの鼻にその香りを運んでくれる。
それが誰のものかなんて、関係ない。
腹が減って仕方が無かったゼロスは香りとまるで輝きまで見得る様なその……皿に盛ってあったクレープに手を差し伸べたのである。




























一つの教訓



























「……で?」

「ごめんなさい、マジで」

目の前にはブリザードのような冷たい視線。
まるでリフィル先生がいるときに遺跡の内部を間違って傷つけた時のような、怒りを存分に込めた視線。
いつもは怒っても許容の範囲で「しかたねーな」と諦めてくれるユーリは今日は違った。

甘いもの、しかもかなり美味かったそのクレープを完食した後眠気に襲われたゼロスは空になった皿をそのままにソファで眠りについた。
それが、返ってきたユーリの怒りを買うことなど全く持って思考の端にも無かったのだ。

そして返ってきたユーリは依頼後に食べようとしていたクレープが無く、その空の皿を横に寝ていたゼロスを発見、そして現在に至る。
ソファの上で正座したゼロスは、静かな怒りを燃やすユーリに昔ロイドに同じように自分の大事なメロンを食べられ激怒した事があったのを思い出した。
20歳も超えて大人げない、とジーニアスは言っていたが同い年でここにも好物を取られて怒る奴がいるぞ、ゼロスは内心思う。
と、同時に自分に怒られていたロイドの気持ちも理解した。

確かにロイドは、「腹が減っていたんだから仕方ないだろ!」と言い訳じみた事を云ったが、うん、言い訳じゃねーな、確かに腹が減ると倍増旨そうに見える、とゼロスは感じた。


「ったく……折角おっさんがクレープ作ってくれたってのに…」



はぁ、とユーリはため息をつく。
このクレープでなければこんなに怒りはしなかったのだ。
何故ならこのクレープは今この船にいない、昔一緒に旅をした仲間の一人、甘味が嫌いなくせに甘味作りが最高に得意な男に無理を言って作らせたもので、仕事でこの船に寄ると言う友達に持ってきてくれるように頼んでおいたものだったのだ。
今回を逃せば、また暫くはあの味を味わえない。
そう思っていただけにその怒りとショックは大きかった。

しかも食べたらしい男は幸せそうに睡眠を貪っていて、普段は可愛いと思う顔も一瞬だけ憎らしくなりユーリはゼロスを叩き起こしたのだ。


「……う、ほんとに悪かったって」

しゅん、と肩を縮こませて上目遣いに此方を見るゼロスにユーリは改めて視線を向ける。
そして……


「ったく……じゃあ、今日は一日仕置きだ。それで許してやるよ」


もう一つ、その友達から受け取った薬を思い出し、ポケットの中にある瓶に指を触れさせればにやりと笑って顎でベットを差したのである。











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