光と闇

□とりっくおあとりーと
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それは、小さなきっかけだった。
なんて事はない。
下町へ見回りをしに行こうかと言う最中、貴族街の子供が魔女の服や狼の耳などのカチューシャを付けて走りまわっているのを見て、あぁ今日はハロウィンなんだなぁ、と思っただけ。
そう思うと、そんな行事も楽しめない下町の子供に少しだけ心が動いた。

だから。

「これから、俺の言う言葉を真似て言ってみろ」

下町に行く前に近くの駄菓子屋で大量にお菓子を買い占めてから下町に降りて。
下町で遊んでいた子供たちに近づいて笑みを浮かべた。




















とりっくおあとりーと














それから数年が経って。アレクセイが団長の席から降り若き青年がその座に落ち着いた。
シュヴァーンは己も加担した犯罪者だと、退団を申し出たのだがそれが許可される訳が無く。
若き皇帝の座に就いたヨーデルに「罪を償いたいのならばこの騎士団を持ち直すまで退団は許さない」と言われ、未だに隊長主席などと言う席についていた。
騎士団のトップも皇帝も若く変わって変わった事と言えば、シュヴァーンが極秘任務と長い時間帝都に居なかったのが一月の半分ほどの時間を帝都で暮らすこととなった事。

まだ右も左も分からないままでトップに上り詰めてしまったフレン・シーフォの手伝いに、魔導器の存在が無くなった事に加えアレクセイの失態で大きく数を減らしてしまった騎士団の再建。
シュヴァーン隊で元より抱えている多くの仕事の処理などやることは山ずみで、シュヴァーンには休みなど殆ど無いに等しかった。







そんな中で、ふと、シュヴァーンは自隊の若い連中が浮足立っているのに気が付いた。
書類の提出は一通り終えて、鍛錬に励む自隊の様子を見に来た時に気が付いたのだが。


「……ルブラン」

「なんでしょうか?」

「あそこにいる若い連中はどうしたんだ?」

鍛錬の最中にも関わらず、何かを相談しているのか時折手を止めている一部にシュヴァーンは目を向けたままに隣を歩いていたルブランに声をかける。
その連中の中には、ルブランの直属の部下でもあるアデコールとボッコスの姿もあった。

「あぁ……もうすぐハロウィンだからでしょう」

「……ハロウィン?」

言われた行事名にシュヴァーンは視線をルブランに向ける。と、そこには苦笑いのルブランが腰に手を添えてため息をついた。

「えぇ。まぁ最初はわしも叱っていたのですが……もうこの時期は諦める事にしたんです」

「諦める……?」

「まぁ……」

隊長も見逃してやって下さい。もうシュヴァーン隊の伝統行事みたいになってますんで。

そう言われて首をかしげつつ、楽しげに鍛錬も忘れて話す彼らをもう一度視線を向けてからシュヴァーンはその場を後にしたのである。






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