光と闇
□とりっくおあとりーと
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その日の夜である。
シュヴァーンは仕事を一段落させたのは、いつものごとく、いやそれ以上の深夜の事。
昼からの忙しさは猫の手も借りたい業務ばかりで結局晩御飯もありつく事が出来なかった為に、誰もいないだろう厨房で自分用の簡単な食事でもこさえようかと食堂に向かっていた。
「……ん?」
と、気が付くのは目の前の厨房に向かう扉にまだ電気が付いている事、更には人の気配。
普段ならこの時間には人はおらず、閑散としており電気も付いているはずもないのである。
ならば己のように食事を抜いてしまった輩がこっそりと食事を作っているか、もしくは大食漢が腹をすかせて食べ物を探しているか。
そう思ったのだが。
「……」
「……!」
「……、……」
中から聞こえる声は一つではない。
数人の声が中から聞こえてきてシュヴァーンは眉間に皺を寄せた。
数人、と言う事は計画的に何かをしようとしていると言う事か。そこまで考えればあまり良い想像が出来るものではない。シュヴァーンも悪い想像を脳内で起こせば短剣に手を添えて、いつでも戦えるよう準備を整えれば、過去に鍛えた諜報活動の力を遺憾なく発揮し気配を完全に消し去ってこっそりと中を覗き込んだ。
その覗きこんだ部屋の奥にいたのは。
「おい!アシェット!この白玉はどうやってまるめるのであーるか?」
「そんなんこうやって……って、あれ?」
「わー!!大変なのだ!鍋が沸騰してるっ!!」
「…………」
どれもこれも見た事のある顔。シュヴァーン隊に所属する、昼間に浮き足立っていた若い連中が危機感も何も感じられない手際の悪い慌ただしさで何かを作っていたのだ。
いや、何か、では無い。
鼻につくのは、甘いあんこの匂い。
シュヴァーンはその色々な事実から、僅かに開けた扉をそのまま閉めてしまおうかと考えた。そして、何事もなかったかのように帰ろうかと。
だが。
「わ、わ、やば!!えーと、次は……そうだ!かぼちゃを入れるんだよな!?」
「あれ?先にあんこをどうにかすんじゃなかったか?」
「砂糖入れるんだろ?」
あわあわする若手騎士はあまり甘味には詳しくないらしい。そこまで聞こえて何を作ろうとしているのかはわかったシュヴァーンは、彼らのあまりのどんくささと、己の自覚するにいたったほっとけない病、ついでに世話焼きとが働いてしまい、帰ればいいだろうと思う心を押し殺して扉を開けたのだった。
「何をしているんだ?お前らは……」
声をかけた瞬間、驚いた顔をした彼らであるが次の瞬間、笑顔を浮かべたのである。
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