光と闇
□短編集
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ユーリは久々に、ギルドの依頼の合間に立ち寄ったザーフィアス、下町に足を踏み入れた途端にその動きを完全に制止した。
目の前に広がるのは、昔は何度も壊れ、己が旅に出るきっかけともなった街の元シンボル、水道魔導器。今は核を無くし完全に機能を停止したその広場でいつもとは全く違う光景が広がっていたのだ。
ユーリがなんとか意識を取り戻し、その人だかりに近寄れば、兜を外した昔の同期、前は確かヘリオードにいたはずのアシェットの姿を見つけ、その方向に足を進めた。
「お、ユーリじゃん。ひっさびさー」
「……アシェット、これはなんだ?」
「なんだって見ての通り、恵方巻きを配ってんだけど」
いつもよりも人だかりの出来るその中央には橙の色を主にまとった騎士達の姿。そしてその騎士がやってきた街人に恵方巻きを配っているのだ。
「なんで」
「シュヴァーン隊行事を増やそうって決めてな。これからは大々的に貴族間でしか広がっていなかったのとか、ダングレストとかあっちのを市民に広げる事にしたんだよ」
そう言えば、前にもそんな事があったが、またもこんな事をしてるのか、とユーリは思う。
それでもこの行事に子供もいつも以上に笑顔を見せているし、他の老人の姿も確認でき情報の収集もできる、そう言って口にするアシェットにユーリは目を見開いた。
「言ったのは俺じゃねーぞ?俺らの誇り高き愛しの隊長」
「……シュヴァーンか」
確かにあの真面目なシュヴァーンなら言いそうだ、とユーリは視線をずらす。アシェットの言葉の中に不穏な言葉も混じっていたがそれは軽くスル―をする方針にユーリは決め込んだ。
と、恵方巻きを配るその中にはいつも自分を追いまわしていたデコボコやルブランの姿も混じっていた。
「しかも、街の人から結構好意的な印象も強く持たれてなー。なんだろ、税の集金とかも「あんたたちなら」って」
「……おい」
「いや!過集金はしねぇし、無理はしてねぇよ。んなことしたら小隊長らに殺されるし」
一瞬そんな事にこんな行事を利用しているのか、と怒りが出てきそうになったユーリに対し、その意味を正確にとったらしいアシェットは慌ててその事を口にした。
「ま、そんなこんなで下町の集金は、「シュヴァーン隊の方以外はお断り」って下町の方の連中が他の隊の奴らを突っぱねたらしくて、うちの隊も忙しい忙しいって」
「ふーん……」
寧ろ、フレン隊の方にしか、と言いそうな所なのに、とユーリは思うものの、確かに下町のみんなと普通に話している騎士たちの姿を見ればその事も納得が出来た。
と。
「では!これから皆で恵方巻きを食べる時間です!今年の方角は南南東!皆様我らがシュヴァーン隊長の方を見て、静かに願いを口にするのですぞ!!」
ルブランの声と共に、やや、やる気の無いシュヴァーンが出てきて自ら南南東の方角に立つ。
合わせてシュヴァーン隊一同、そして下町の住民がその方角を向いた。
「って事で、俺もシュヴァーン隊長がずっと隊に居てくれる事を願って食べるとするか」
「……おい」
騎士団が騎士団としてきちんと機能を果たすようになったらその職を辞して身を隠すのだ、と前に旅をしていた時にいっていたレイヴンであったが、きっと集まったシュヴァーン隊の騎士の殆どは今のアシェットと同じような事を考えているのだろう。そして、願うのだろう。
「……俺も、恵方巻きを貰ってくるわ」
「おう、でも俺らの隊長を奪う事を願うんじゃねーぞ!」
「知るか!」
そんなこと、誰がさせるか、とユーリはその祈りの儀式が始まる前にと恵方巻きを一本掠めるように奪い、南南東に立つシュヴァーンを見ながら目を閉じ、口を開くのである。
彼らの恵方巻き事情
(シュヴァーン隊長は俺たちシュヴァーン隊に!)
(もっといろんなイベントが増えますように!)
(皆が幸せになれればいいのう)
(おっさんが俺た…俺のものになりますように)
(……俺はいつまでここに立って居ればいいのだろうか…)
おしまい!
あれ、可笑しいシュヴァーン隊の話なのにシュヴァーンが出てこない…?
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