6万打記念小説
□雪の舞う街の一角にて
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ついでに目の前には、既に待っていたのかジェイドの姿。
首にマフラーとコートを上に羽織った姿で、にこりと笑って同じものをゼロスにも渡し、そしてやはり特に何も説明の無いままに街に入る事になったのだ。
その為、ジェイドの口から出た言葉にゼロスは心底驚いた顔をする。
「……やっぱ俺さま帰る、今は旦那に付きあえる元気ねーし」
「おやぁ、それなら常ならば付き合えるということですよね?可笑しいですねぇ、今までも一度も付き合っていただけた事は無いように思いますが?」
そして踵を返そうとすれば、笑顔で返される言葉。
明らかに自分の状態を知っての発言だった。
「…………何よ、知っていて俺さまをこんな所に引っ張り出したわけ?」
「ゼロス、声が低いですよ」
そりゃあ、現在の気分は0を超えてマイナスまで達してますから、普段のゼロスであればそんな事を口をついて言っていたが今日はそんな気分にもならなかった。
視線だけでジェイドを睨みつけた。
それに気が付いてジェイドも肩を竦めた。
「貴方が、雪の降る場所に来るたびに機嫌が悪くなる事はバンエルティア号にいる皆が知っていますよ。その理由までは知らない人の方が多いですが」
「……ま、俺さまも普段と同じようには居られてる自信ねーし?」
「だから放っておいて欲しい、というのが貴方の思いでしょうが、このギルドは何故か無駄に正義感と良心が強く、かつ放っておけない病に罹っている善人の人間が多いのですよ」
「旦那も?」
「まさか」
歩きながらジェイドの言葉を聞く。
ざく、ざくと雪の感触を確かめるようなゆっくりとした歩きは正直嫌なのだが、いつの間にか掴まれた手をゼロスは振りほどく事が出来ずにいた。
何処か、嫌みの込めた善人の人間とはきっとゼロスの頭の中に浮かんだ人物たちと同じなのだと思う。その中にジェイドという人物はいず、聞いてみれば清々しいほどの笑みを浮かべて否定された。
あ、そう、まあそうだろうけど。
そんな言葉が出そうになりつつゼロスは視線をきらきらと擬音が付きそうな笑みを向けてくる嘘くさい笑みを向けるジェイドから反らした。
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