6万打記念小説

□一つ上の思い人との攻防戦
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「……さーんきゅ」

「棒読み」

「ははっ」

ゼロスの怪我が無い事も確認して礼を言えば、呆れた口調でゼロスが言うのでユーリは笑みを浮かべてゼロスの肩に手を回した。
最初の頃こそ接触を拒否していたゼロスであるが、最近はあまり嫌がらない。
しかも、おっさん相手の時やカロルなど自分より小さい相手(おっさんがその基準だと知った時はかなり落ち込んでいたが)には後ろから抱きついて甘えたりからかったりしているのだから、元からそんなに接触が嫌いなわけではないのだろう。とユーリは思っていた。
その考えは当たっていたのかこちらからの接触もそんなに嫌がらない。
それに気を良くして、当たり障りない話でもしようかと口を開けば。






「そーいやさ」

「あ?」

ふと、そこでゼロスがちらりとユーリを見てくる。
視線がかち合うとゼロスはにやりと笑みを浮かべる。
本当の心からの笑みはまだユーリは見たことが無いが、馬鹿笑いでも無く、自嘲でも無い笑みでもない、そんな笑みは初めて見た気がして、その先を聞く為にもゼロスをじっと見る。

「ユーリ君って、スイーツ好きなんだよな?食われるぞ?」







「……あ?」

そこでゼロスの差した指の先。
今日の料理担当は甘味に対して嫌いと言いつつその腕は天下逸品のレイヴンであり、且つそのメニューは。

「今日の……これはなんですか?レイヴン?」

「……タルト、よ。ゼロス君のたってのリクエストで」

「うっわ、これ美味しー!!」

「うむ、これならばまだまだ食べられるのじゃ!!」

「フルーツをふんだんに使っていて、下の生地もなかなかいい味をしているわね……」

「悪くない、わね…」

タルト、で。
珍しいメニュー且つレイヴンの手作りとなれば、直ぐに無くなるのは必至。
メンバーは既にそれぞれ一つづつ取っているし、甘党になるリタやパティは既に2個目を取ろうとしている。

「な……!」

「俺さまんとこのメニューなんだけどー、ユーリ君は食べれないかねー、あれじゃ」

その光景に、ユーリは一瞬言葉を失い、ゼロスの的確な予想に次の瞬間にはゼロスの腕を掴んでその輪に向かって走り出した。

「待てやお前ら!!俺らの分はっ!!?」

「おや青年、食べにこないかと思ったわよ、いつもは一番で駆け寄ってくる男がこないんだもんね」

「食べるに決まってるだろ!?」

慌てて声を荒げる男に、引っ張ってこられたゼロスは後ろでいつものげらげらと腹の底から可笑しいというような笑い方をして、レイヴンがこれが青年の分ねーと実は取っていてくれたらしい一皿を奪い取るとそのまま口に入れた。

「くっそ……!たく、覚えておけよ、ゼロス」

「俺さま知っらなーい」




涙を浮かべて笑う男が本当の意味で笑顔を見せてくれるのは、絶対に自分が最初になってやる、そう思うも、どこか振りまわされている感が拭えないユーリは口にタルトを突っ込んだままにゼロスに戦線布告したのである。





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