パズル

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決戦は間近。


その前にレイヴンは決心を一つ、心にしていた。
それは、10年以上も前から、いや、正しくは10年前に親友だった男、イエガーについてだ。

あの男は必ず、ザウデ不落宮でレイヴン達の前に立ちはだかってくる。
それは、目に見えていた。


イエガーは昔からアレクセイの事をそこまで信頼はしていなかった。回りがアレクセイに尊敬と敬愛の眼差しを向ける中、イエガーはそれを遠目で眺めているだけで(そしてシュヴァーンだった俺はいつもからかわれていた気がしなくもないが)あった。

しかし、何の運命か俺と、そしてイエガーだけが戦争で生き残り過去を知る存在としてアレクセイの手ゴマとして働く事になった。
全ての感情を斬り捨て、死人同然だった自分に対し、イエガーはどうだったのか。
今改めて考えるとレイヴンの中では不思議と感じる事が多々あった。



あいつはドンを信用していた。
それこそ、アレクセイ以上に。
なのに殺す必要があったのか?
そもそもどうしてイエガーはアレクセイに従っているのか。
親衛隊のように、心酔しているわけでもないのに。
昔は己と同じように悪い事を嫌いと言い切る奴だったのに。


アレクセイに従う理由を考えるならば、それは何かを「握って」いる。それしかレイヴンには思い浮かばなかった。
そう、己が自分の心臓や部下の命を彼に「握られた」ように。
それならば。










「確かめてやろうじゃないの…」


あの赤毛の青年と話をして己の決意は固まった。



もう、誰も死なせない。
   誰も独りにさせない。
   誰も置いていかない。


アレクセイを己の手で助けるなんておこがましいのは分かっている。でも、何かをしたいとシュヴァーンとしても気持ちが騒いでいた。そしてイエガーについても。
だからこそ、レイヴンは単身、皆が眠る宿を一人で抜け出してきたのだ。

まぁ、あの赤毛の青年は眠れないと言っていたからバレているかもしれないが、彼が仲間に告げ口するような事はないとレイヴンは思っていた。

ここまで来れば、食わば皿までだ、と。
ひらひらと舞う邪魔な上着は置いて。
出来るだけ見つかりにくい黒のアンダーとズボンを身につけ髪紐を解く。
草の陰から確認するのは、闇に溶けそうな屋敷。









背徳の館。



イエガーの本拠地。
ここにイエガーがいるかは分からない。
だが、もう時間は無い。
見張りのギルド員の動きを観察しながら、どうかここに居ろよ、といるかいないか存在自体信じてはいない神様に祈りながら見張りの意識を反らすべく、手に握った石を反対の草むらに投げ飛ばしたのである。
















ACT,9
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