パズル
□19
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「この本はゼロスが見れる時が来たら見れるように……ゼロスが持っていてください」
そうエステルが己に渡してきたのは『群青色の戦士の伝記』で。にっこり笑いながら渡すエステルに貰わないと言う選択は選ばせてもらえないようで、苦笑いをしながらその本をゼロスは受け取ったのである。
そして。
「くっそ……」
己を振り返り、その本を開く意思を固める前に事件は起こる。しかも続々と。
ふらりと消えてしまったパティを追っていけばブラックホープ号に辿りつき、そこでパティがアイフリードだってことが分かって。
一番の腹心を己の手で殺す事になり傷付いたパティを休めていれば突然の大地震、更に。
魔物の襲来を受けてフレンのピンチ、と次から次へと起こる出来事に巻き込まれていた。
全く自分と向き合う時間もねーじゃんよ、そう思うもこうやって傷を癒すのも必要かと割り切ってゼロスは自分の意思でユーリ達といざ、ピピオ二アの地に降りたのだが。
ACT.19
「敵多!!」
「やっぱり大陸中から集まってると言うのは凄いわね……」
倒しても倒してもどこから来るのか湧く魔物。更にに逃げ惑う民間人を助けながらの戦闘は中々に大変だ。降りる前にパティが「2日もあれば」などと言っていたが本当にこれでは真面目に戦っていれば掛るかもしれない。
そう、このままの戦闘では。
明星一番を使うと言う事はまず決まったとしてフレンと合流する為に一行は魔物を斬り捨てながらに先に進んでいた。
戦闘でフレンの方に向けて走るラピードを追って一撃とまではいかないものの避けざまに切り刻み先を急ぐユーリに、途中から多勢に無勢な闘いに弓から剣に切り替えて近距離での戦闘でユーリの取り残した魔物を切り捨てるレイヴンに続き、ゼロスとカロルも前線で魔物と戦っていた。
「タイダルウェイヴ!!」
「フォトン!!」
後ろから頼もしい魔法の支援も、ジュディスとパティの二人の援護付きできちんと回っているようだった。
と。
「見えた!!」
声を上げたのはカロルだった。土煙の先に見えたのは、白と蒼を基調とした、前にも一緒に闘った事のあるフレンと。
その横に3人の兵士。
一人の声の大きい兵士が一瞬を突かれ魔物に襲われそうになった途端、レイヴンは変形弓を即座に弓に戻して魔物を打ち落し、なんとか五体無事のままに合流する事が出来たのだ。
そしてフレンに船で練った計画を話し、時間の無い事もあろ即座にユーリ、フレン、ラピードで向かったの、だが。
「……おい、おっさん!!ここは任して援護行くぞ!!」
「ほぇええ!?」
やっぱり、気になるものは気になる、と言うのがゼロスの思いだ。
彼らが負けるわけは無いが、この多勢に無勢は酷過ぎる。何か関係があるのか魔物の暴力性も上がってきているような気もして、彼らだけでは多少の不安を覚えても仕方がないとゼロスは思う。
「リタちゃんかおっさんかちょい迷ったけど、……ここはおっさん、俺さまの剣になれ!!」
「え、それってどういう……ほぎゃぁあ?!」
「レイヴン……!?」
ゼロスの言葉に、レイヴンの叫び声。そこでエステルが振り向いた視界の先、そこには今まで声がしたはずのゼロスもレイヴンもいなくて。
ふわりと暗く、風を呼んだ視界に視線を上にあげればそこには。
「……!!」
「あら、それはいい案かもしれないわね」
「確かに、それならあたしかおっさん、ね!!」
何をしたいのか、先程のゼロスの言葉と空に浮かぶ体勢に理解したジュディスとリタは、驚きに声を失ったエステルとは対照的に納得の声を上げた。
「えぇ!!?どういう意味か僕わかんな……!?」
「なぁるほどー。それならうちでも良かった気がするが……」
「パティの技はランダム過ぎるからだと思います」
カロルが空を見上げて口をポカンと見開く。そして続くようにそれぞれが思い思いの事を口にする先。そこには。
「ちょ……ゼロス君、ここここれ、あ、頭に血が上りそ……っ!」
足を掴まれ逆さに浮かんだレイヴンと、足を掴んで空に舞うゼロスの姿。今回の魔物の群れの殆どは地を這う魔物。つまり空は安全地帯とも言える。そこから魔術や矢を落せばそれは確かにかなりの援護となると言えるだろう。
その援護の要になるレイヴンは突然の逆さづりに蒼い顔になっているが。
しかし、そんなことも言ってられないという状況はレイヴンも分かっており、軽く腹筋を使って身体を起こせばゼロスと視線を合わせてきた。
「じゃあ、まずは……っと!!」
「複合魔法でもいっちょやりますか!!」
ぐっと、矢を空に向けて構えたレイヴンに合わせてゼロスも魔物の手の届かない位置に飛び上がってから己の持つ天使術の中で一番効果の高い魔術を練る。
「降り注げ!!」
「……ジャッジメント!!!」
二つの技が空中で重なり、光の雨となり戦う騎士や逃げ惑う民を襲う魔物に向けて言葉の如く降り注いだ。
それはまさしく。
「「ホーリーレイン!!」」
で。
光をまとった矢が降り注げば辺りの魔物は一瞬にして数を減らすのである。
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