響き合う物語

□照れた頬
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「これが手錠?」

「そうだ、私のように力の強いものにはこのような頑固なものを使用するが基本的にはこっちのものが流通している」

ロイドは手に持ったその薄い鉄の二つの輪っかがつながったものを見ながらにへぇ、と声を漏らした。

「で、どうやって使うんだ?」

「そうだな……大抵はこのように」

最もな質問ではあるが、大体の人間は手錠の使い方は知っているのではないかと苦笑いしながらリーガルはロイドから手錠を受け取ると、ソファで先ほどから寝こけていたゼロスの手を掴むとその片方をガチャリとかけた。

「こうして片方を腕につける。そうしてもう片方は……用途にもよるが、逃げるのをふさぐ時は近くの柱などに。行動を制限したいときは私のように両手に。……そして自分の傍から逃がさないようにするためには己の手につなげる、と言う方法が一般に言われる方法だ」

そして、説明しながらにソファの下の脚、次に自分の手を見せた後にロイドの手を掴んで嵌めるふりをした。
























……はずだった。











照れた





















「……で?何で俺さま突然起こされたと思ったらロイド君と手錠でつながれちゃってるわけ?」

ゼロスは多いに不機嫌だった。
と、いうのもぐっすりと眠っていた所を叫び声やら何やらで妨げられ、目を開ければ目いっぱいのロイドの顔(ついでに顔面蒼白)さらに右手はロイドと手錠でがっちりとホールドされているのだから仕方がないと言えば、仕方がないのだが。

「……ごめん、僕が何も知らないでロイドにぶつかったから」

その言葉に最初に謝ったのはジーニアス。
なんともありきたりだったのだが、リーガルが手錠を嵌めるふりをしていた時に、そのリーガルの後ろでジーニアスがプレセアに上げるプレゼントの事を一人考えていた。
そしてよからぬ妄想にたどり着いた途端に大声をあげて椅子から立ち上がったのだ。
その声に驚いたのと、椅子がぶつかった事でロイドの手に手錠がはまったのだった。

結果、ロイドが声をあげて無理矢理手を振り上げ、つられてゼロスの腕も持ち上がれば眠っていたゼロスの身体は何の抵抗もなく、ソファからずり落ち、慌ててロイドが支えようとして失敗、押し倒す形になったのだ。

そのやかましさにゼロスが起きないはずもなく、起きて広がる光景と状態に不機嫌になった、と言うわけだ。

「ゼロス、大丈夫か?」

「大丈夫か、の前に俺さまの上からのいてくんないの?ハニー」

それでも、とりあえず平静を取り戻したらしいロイドはすぐに心配してくれるが目の前にロイドがいるというのはゼロスに取って心臓に悪かったらしい。
そう言い放てば今更気がついたというように、慌てて上を離れようとした。

しかし。



「あいたたた!ちょっとハニー!手錠掛かっている手は俺さまも強制的に動かされるんだからその手は動かさない!」

「あ、わり!うわぁ!!」

「ぐぇ!」

片手が共有されるという事態はそうそうあるわけもなく、慌てたロイドが手錠と言う初めての体験で状況を読めるはずもなく。
ゼロスの手を思いっきり引っ張り、抗議されて慌てて引っ込めようとして失敗、ゼロスの上に重なるように倒れてしまったのである。


「……ロイド君?俺さまをどうしたいの…!」

「ご、ごめん!」

その時に思いっきり横っ腹を手で押しつけてしまい、身体的ダメージを大きく受けてしまったゼロスは
謝る前に早く解放して欲しいと切に願った。


だが。

「……もー!どうでもいいから早くこの手錠外せばいいじゃんよ!」

「あ、そうか!リーガル!」

その為願望を込めてゼロスがリーガルに言えば、ロイドも振り向いて。
しかし、その先にどこか困ったように目尻を下げるリーガルに二人揃って嫌な予感を感じ取った。


「すまん……今探していたのだが、どこかに行ってしまっているようだ」










「「えぇぇえええええーーーーーー!?」」


その言葉に数秒のブランクを開けた後に、二人の悲しみと驚きがこもった声が宿屋に響いたのである。
















「……で。呼ばれて来てみればあんたたち何をしてんだい」

「いや……ははは」

「つか、俺さまのせいじゃないから!明らかに濡れ衣だから!」

その後、鍵は確かに部屋にあるはずだというリーガルの言葉から、ジーニアスも一応は責任を感じて探してくれたものの、鍵は全く見つからず、しいなが鍵開けができると言っていた事を思い出してジーニアスがしいなを呼びに行ってくれた。

最初に不審な目をするとともにゼロスを疑った姿にリーガルもジーニアスも苦笑いを浮かべるしかなかったが。



それでもとりあえず事の状況を説明すれば、大きなため息をついてしいなは二人のつながっている手錠を軽く掴んだ。

「……まったく、どうせならアホ神子の手だけにしときゃよかったんだよ。そしたらこんな大事にもならなかっただろうに…」

「ちょ……!今回俺さま悪くないっていってるでしょー?!てかそれ酷くない!?」

ついでに言われる悪態にゼロスが抗議すれば、しいなははいはい、と軽く流しながら頭からピンを一本取り出すと、そのカギ穴に押し込んだ。

「って言うか、なんでこんなところにこんな手錠があったんだい?」

「それはわが社で開発した、新たな手錠でな、従来のものよりより強固で魔法も効かず、絶対に脱走をさせないためにと言うコンセプトで出来たものだ。新作と言う事でぜひ見聞してほしいといわれてな……」







「……絶対に?」

その言葉にゼロスは眉間に皺を寄せた。
この目の前の男はこの年で会社の社長をしているだけあって、彼が絶対と言えばそれは確かに絶対になる。
それが、どんな意味になるかと言えば……


「しいな?」

「お、おっかしいねぇ……」

かちゃかちゃと音が響くだけで結局は時間だけが過ぎて行き。

「ごめん、あたしには無理だわ」



「えぇえぇえええ!」

「リーガルゥゥウウウウ!!」


そんなものを持ち込むな、とゼロスは本気で思ったのである。












―――――――――










「全く……俺さまひと眠りしたら風呂に入ってゆっくりするつもりだったのに……何この仕打ち、なんなのこの仕打ち。てかなんでロイド君と一緒に寝なきゃいけないわけ?」


結局、どうしても手錠は外れなく、それは服も脱ぐことも出来ないという事で(幸い二人ともすでにシャツ一枚であったが)風呂にも入れず、顔と歯だけ磨くと一緒のベッドに入ることしか出来なかった。

「仕方ないだろ?てか俺は左手なんだからお前の方がまだよかったろ?利き手なんだし」

「それ以上の問題でしょーが」

確かにその問題もあった。
だがそれ以上にトイレも連れション。
顔を洗うにしても何をするにしても相手と一緒という今までにない体験に困惑しているのが事実だ。


そして最後に問題とされたのはベッドだ。
二人で一緒に寝るとなると流石に、普通のサイズのベッドでは小さく、仕方なしに宿に話を通してダブルベッドのある部屋に二人だけ移動させてもらったのだ。


その為、広いベッドを確保できて良かったとも言えるが、今までの事が事なだけにゼロスは素直には喜べなかった。
リーガル達がもう少し部屋を探してくれるとは言っていたが、片手しか使えなく互いに距離を離せられない状態では邪魔だと返されて。
結局、剣も磨くことも出来ず、することが無いと二人で早いうちにベッドに転がったのだ。



「……でもさ」

「あん?」

「ゼロスとずっと一緒に過ごせて俺は良かったけどな?」

「……何をいうかなロイド君は」

「だって本当のことだし。俺、ゼロスの事もっといっぱい知りたいって思ってたからさ」

暗い部屋の中でも、暫くいれば目が慣れる。
ロイドの顔がいたって真剣であることにゼロスは気が付き、途端に頬に熱が集まるのを感じて、ロイドに気がつかれないためにふいと顔を反らした。

「それに、俺たち一応恋人なんだからいいじゃん。俺、ゼロスが他のやつと繋がったら無理やりにでも剣でぶった切ったぞ?」

「……それはやめて欲しいなぁ」

きっと、あのリーガルが手錠の中では最高作品だと豪語していたのだから絶対に剣を振り落としても手が傷つくだけだ。
しかし、その意味に気がついていないロイドはゼロスの言葉に満足しなかったのか頬を膨らませた。


「……なんでだよ」

「俺さま痛いのは嫌いだもん」

「恋人が、他のやつと繋がってたら嫌だろ?」

繋がってたら。
それはロイドの中ではそのままの言葉なのだろうが、ゼロスから見たらどこか卑猥で。
ロイドの言葉をもう聞かない為にゼロスは顔を完全に反対に背けた。


「もうこの話はおしまい!俺さまもう寝るし!!」

「そっか…んじゃ俺も寝るかな」

もぞ、とロイドが顔を背けた向こうで動くのがゼロスにはわかった。










「……俺さまだって、ロイド君以外のやつと繋がってたら問答無用で蹴り飛ばしてたっての……」

その言葉は、小さくロイドには聞こえないようにいたのだが。







照れた頬は、暫く熱が冷めることはなかった。
























□■□おまけ■□■


「あったよー!鍵!」

「え?!どこに!?」

「マジマジ!?早くこれ外して!」

朝、目が覚めてとりあえずソファに座っていた二人に、ジーニアスとリーガルが駆け込んできた。
そしてその一発目の嬉しい報告に二人は嬉しげに身体を前に起こした。


「実は私のポケットにあったらしいのだが、それが落ちて部屋に置いてあった珈琲の中に落ちていたらしくてな……」

「「へ?」」

しかし、続く言葉はどこか不吉な言葉で。

ジーニアスは困ったように目尻を下げると頭をかいて。

「あはは……ごめんね二人とも。僕の胃の中に入っちゃった」

言われた言葉に、二人はしばし硬直したあと。











「「えぇぇえっぇえええええええ!!!!?」」

朝では明らかに近所迷惑としかいいようの無い叫び声が響いたのであった。




おしまい。
みな皆様こんにちわ、そしてはじめまして。
かび花と申すものです。今回610祭に参加させて頂いたチキンハートのかび花です。
610祭は前々からいいなぁと思っていたのですが、今回思い切って参加と言う形を取らせていただきました。
本当にこんな拙い小説ですが少しでも、610スキーな皆様に幸せになって頂けると嬉しいです。
それから今回主催の水城雫様、五月ソノヲ様こんな私を加えて頂き本当にありがとうございましたぁぁあ!!!

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