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□ストレンジ・デイズ
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私の手に握らせられた油性ペン。目の前の机には開かれた英語の教科書。
この教科書の持ち主は、同じクラスの橘 夢香のものだ。私のものではない。
私は今から、この教科書に「死ね」と書かなければならないのだ。
いつも行動を共にするグループの6人に囲まれて夢香の椅子に着席させられた私は、半ば強引にペンを握らせられた。
夢香はいつも昼休みのこの時間には、保健室へ行っていて教室にはいない。
他の生徒もほとんどはどこかへ出払っている。その時間を狙っての確信犯。
私はこんなことをするためにこの学校に入学したわけでも、この子たちと仲良くしたわけでもないのに。
「美菜、早く書いちゃいなって」
「それともアンタ夢香の肩持ってんの?」
「ちが…っ、違うよ!」
「ほら、早くしないと夢香も先生も来ちゃうから」
つい先月までは、夢香も私たちのグループのひとりだった。
夢香は柔らかい雰囲気の女の子で、私は彼女と一番仲が良かったのだ。
そもそも、いわゆる「ギャル」の多いグループに、私や夢香みたいな普通の人間が入ってしまったことが間違いなのだろう。
高校に入学してすぐの席順が近かった8人が、なんとなく集まったグループだったから仕方がないのだけれど。