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□最低で最高の人
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放課後の保健室は比較的ヒマだ。
部活で怪我をしてやってくる生徒は意外と少なかったりする。
私は、健康観察簿から生徒の出欠をチェックして、今日もきっちり定時にあがろうと思っていた。
「終わったー。帰ろ」
バッグに荷物を詰めて、帰り支度。
時刻は5時ちょっと前。予定通り。
……の、はずだった。
「セーンセ。」
背後から聞こえた声に身体が一瞬強張る。
聞き慣れた声。
「…久山先生、」
「来ちゃった」
保健室の入口にもたれ掛かって立つ男、久山。この学校の数学教師。
長身に、スラリと細長い手脚。小さな顔にバランス良く収まったパーツの美しさが生徒にウケているらしい。
彼の優しい笑みは生徒にも他の先生にも大人気。
だけどそのキレイな顔に称えた微笑みが完全に作られたものだということを、私は知っている。
だってこの男は、私の恋人なのだから。
みんなの知らない彼のことだって、私はたくさん知っている。