落とし物

□緑の郵便屋さん
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「郵便屋さん、お願いします」

雪の降る空の下、10歳になったばかりの女の子は、サイズのあっていない緑の帽子を被った、小さな国際郵便配達員に小さな花と手紙とを渡した。

「手紙と花……ね、いいの?高価じゃん」

世界を牛耳っているともいえる国際郵便局では異色の少年は、たかだか8歳という年齢で登録されていた。
名前の知らない花だけれど、雪のやむことのないこのウィンヤーナ国では限りなく高価なものだろう。

「でも、お兄ちゃんにも見てほしいの」

頬を少し染めて彼女は言った。
世界中の人間関係を把握している恐ろしい組織に所属している少年は、詰まらなそうに仕事を進めた。

「どこに届ければ?」

「スプアード国S2番地のシュクラ・ウォルネイラ宛で」

紙に書くのは面倒だったのか、頭の地図に赤印の記憶をつけた少年は、はぁ。とこの国から出たことのない少女見て呟いた。

「スプアードに花、ね……」

何故そこでため息をつかれたのかわからない少女が首を傾げると、少年は気にするな。と空いている手を振った。

「で?」

その手を下げて、手のひらを少女に向けた。
そんな少年に、少女は再び首を傾げる。

「何、ですか?」

「何って……まぁ、いっか。Sの2番地だもんな」

配達アミーを請求しようとした少年だったが、ボロボロな服を着ている少女を見て手をひっこめた。
どうせあそこに暮らしてるのは金銭感覚がないアホだけだ、好きなだけぼったくってやる。

「あ、あの!!……お花が枯れないうちに」

「速達か……。オレ足車持ってないんだけど」

ぼやいた少年は、仕方なしに数回その場で飛びはね、花と手紙をビンの中に入れた。
肩からかけている緑色のカバンに入れると、少女に背を向けて走り出した。

「国際郵便配達員カイ、ただいまあなたのココロお預かりいたしましたーっと」

局で決められている言葉を、少女に向けたわけでもなく言うと、スプアード国への最短距離を風の速さで駆けていく。





ウィンヤーナとスプアードの国境を越えると、先ほどまで降っていた雪はいっきになくなり、透明な壁を通り抜けたように暖かい空気が辺りを包む。

「やっぱ慣れないよなー、国境越え」

呟きながら、ビンを取り出してまだピンと延びている花を見ると、少年は再び走り出した。

「S2番地……ったく、中央かよ」

王室のS1よりかは気が楽だったが、何故あんなとこまで、とぼやいた少年は、やはり膨大なアミーをぼったくることを決めた。
道には雪がなく、たくさんの花がただ咲いていた。





「シュクラ・ウォルネイラ様、ウィンヤーナ国のセイラ・ウォルネイラ様からの速達を届けに参りました」

Sの番地に入るのは、緑の帽子さえあれば無条件だが、各家にはやはり声をかけなければならない。
また、S番地を走ろうものなら、いくら国際郵便局の配達員といえども咎めを食らわないことはない。
面倒な場所に来て、少年は腹がムカムカしているのを感じた。
いくら待とうとも、無駄に大きな門が開く様子もない。

「シュクラ・ウォルネイラ様……。オレの帽子見えませんかー?」

その言葉でようやく開く門に、この家の内情を見た気がした。いったい国際郵便局に知られた悪事がいくつあるのか。
ただし、子どもだと侮られているのか、門から本邸が遠いというのに迎えの1つもない。
オレが最年少配達員やってる理由わかってんのかよ、と少年はこの家の頭脳を1蹴りにした。
力がないヤツがあそこに入れるはずがないというのに。
問題を起こすのも面倒になって、少年は仕方なく長い長い本邸までの道を歩いていった。
そういえば花はちゃんと無事か?と確めながら、走ることができない場所を早歩きで進む。

やっとたどり着いた本邸の玄関。
誰がこんなデカい扉必要とするかよ、と頭を抱えたくなったところで、真上から声がかかる。

「おや、汚いガキ」

その声の周波数の一部にセイラと同じ数値を感じとり、さっさと仕事を終わらせることにした。
上を見上げると、バルコニーから顔を出して笑っている男の姿。

「E階級のガキか。そんな階級のガキが国際郵便局の制服ねぇ……。制服に着られてんじゃねぇか」

あの組織が階級を気にしていないと知った上での発言か、とS階級というには愚かな人間。

「シュクラ・ウォルネイラ様、セイラ・ウォルネイラ様より速達です」

「その辺に置いとけ。覚えてたらとりにいってやる」

で、とりにいかずに職務怠慢を報告か。
いつの時代なら成功する話だというのか。

「速達と言ったはずですが?」

表情を静かに声だけで叫んだ少年に、シュクラは仕方なさそうに部屋の中へとひっこんだ。
自分で出てこようとするのは立派な精神だ。と、そこだけは感心した。
無駄に大きな扉が大事のように開かれて、中からゆったりした動きでシュクラが歩いてきた。
少年の制服をじっと見て、うん。と頷いた。

「カイ、ねぇ……。その名前は親からもらったのか?」

「シュクラ様がわたくしをE階級だと仰ったのでは?」

カイは制服に白で縫われた名前を隠すようにしてカバンからビンをとりだした。
E階級ごときからの手渡しは嫌なのか、手をだそうとしないシュクラに沸々と何かが込み上げる。
仕方なく、近くにあった手すりにビンを置く。
帰ろうとしないカイに文句を言おうとしたらしいシュクラより早く、カイは口を開いた。

「着払いです」

そこでシュクラの眉が寄った。
ビンの中身を見て、カイをバカにしたように笑った。

「お前、たかが花だぞ?そこらにもいくらだって咲いてんだろうが」

「手紙もあるのですが、見えませんか?それに、花と言いましてもウィンヤーナ国からですのでそれ相当を覚悟してくださいね」

それとも、払えませんか?
カイが挑戦的に訊ねれば、シュクラは両手を広げて笑った。

「まさかー。カイ、面白い冗談だね。アミーなんていくらでも湧き出てくるんだよ」

そんなわけあるかよ。とカイは拳を震わせた。
働きもせずに遊んでばかりいる人間が、ここまでになれる家。
おそらくこの代でさらに繁栄してしまうだろう時の流れに舌打ちをする。

「200000アミーいただきます」

手すりに乗っていたビンが落とされた。

「ぼったくりもいいところだな、国際郵便配達員さんよ」

ガラスでできたビンは粉々に割れ、数欠片の大きめなガラスが、花と手紙を切り裂く。小さくなって拾うこともできないだろうガラスが花びらの中に入り込む。擬似太陽の光を浴びて、7色に輝いた。

「局に問い合わせていただいて結構ですよ」

ぶんどれる時にアミーをぶんどるあの組織に連絡すれば、むしろ倍にするだろう。
下級階級の人間には無償で働くあの組織は、どうもよくわからない。
何故まだ存在できているのか。

「持っていけ、200000アミーだ」

緑色の封筒に入れられたアミーを数えることもせずに受け取った。

「国際郵便配達員カイ、ただいまあなたへのココロお届けいたしました」

頭も下げずに背を向けたカイを、シュクラは舌打ちをして呼び止めた。

「そのカイって名前、嫌いじゃないぜ」

「わたくしはシュクラって名前、好きではありません」

カイはたらたらと歩きながら小さく“ウィン”と呟いた。
風が吹き荒れたかと思えば、そこにはもうカイの姿はなかった。





『なにがE階級だ』

「文句あんのかよ」

『E階級を甘く見てるカイ、お前に対してならな』

「……似たようなもんじゃねぇか」

『妖狐持ちのお前は飯も食える。仕事だってあるだろうが』

「好きで妖狐持ちになったわけじゃないさ」

『ほぉ、我を捨てるか?』

「捨てられてくれんのか?」

『ふ、無理だな』

空を漂う銀色の狐。その上に寝転ぶカイは、だろ?と笑った。
風の強い上空では、体の小さなカイのサイズに合っていない、国際郵便局の制服がバタバタと音をたてる。

「……海行きたくないか?」

『まったく』

「オレは行きたい。おら、海だ海」

『今から妖狐本部に顔を出すんだろ?その後国際郵便局……海は後回しだ。夜になるだろうな』

狐の言葉にカイは楽しそうに笑った。

「いーじゃん。闇に染まる海。かっこいいかっこいい」

口笛を吹きながら、緑の少年は空を漂っていた。





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オリジナルーっ!!
そういえば12月最後の授業で書いたヤツはなくなりました(笑)
教科担当の先生は担任に渡したっていうんですけど、担任は知らないそうですorz
激しく残念ですが、まぁ仕方ないですね!

さて、今回の話は長ったらしいうえに何が書きたいのか(笑)
しかも続きそうな雰囲気ですが、気にしちゃいけません!!
今年はきっと緑が流行カラーになりますよ(笑)
それでは、失礼します!!

(20100104)


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