落とし物

□勇者と魔王の密約
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「……長かったな」

いつからだったか。
初めて彼女を見たときからだから……、

「もう3年「1年もかかりましたね」

後ろからの声に肩を震わせた。
そうだ、正式にはまだ1年しか経っていない。今までの全ての努力が水の泡になるところだった。
後ろにいる3人の仲間に、あぁ。と頷く。

「これで、やっとウェンディさまを助けることができるのですね」

すでに目を潤ませているマーナの息があがっているのを見た。

「ライド、マーナの回復を頼めるか?」

「あいよー」

ライドのまわりに魔力が集まったのを感じたマーナが、慌てたように息を整えた。

「私は大丈夫です!!」

「ど阿呆め。おみゃーがいなきゃパーティの速さの要がいなくにゃんだろうが」

そう言ってマーナに光を被せたライドを見て、結局今の今までの深く被った帽子をとらなかったレルダが頷いた。

「俺……は、力あるけど、遅い……から」

最後まで個性の強い3人を見て、つい笑った。
みんなして、ウェンディ姫を助けにここに来た、か。
気持ちの悪い、まるで生きてるかのような巨大なドアを見ると、どうも開くのが憚られる。
この旅が終わるのが寂しいわけなんかじゃない。この3人には少なからずそんな想いがあるかもしれないが、はっきり言ってオレにそんなものはない。
あるのは、早くこの扉を開けて、約束通りに魔王を倒してウェンディ姫を救う。
そのままパーティのリーダーのオレとウェンディ姫との結婚式。
アイツとは、そう約束した。
魔王の生まれ変わりだと、変な力があると泣いていたあの男と。

「この扉、これで全てが終わる」

誰かがゴクリと唾をのんだ。

「最後まで、気をぬくな。敵は今まで散々オレたちを苦しめた魔王だ」

それぞれがそれぞれの武器を構えたのを見て、気持ちの悪いドアに手を向けた。
もちろん開くはずもなく、仕方なくそれに触って、ようやく押した。
細い、細い廊下。城の中のはずなのに、廊下の横には奈落が手招きしている。
その廊下の先、真っ黒な布で体を覆った何かが1人立っていた。

「1人……ウェンディ姫はどこだっ!?」

まさか、約束を破ったわけではないだろうな、と睨み付ける。
オレより一歩前に出たマーナも高い声で騒ぐ。

「ウェンディさまをどこにやったの!?」

すると真っ黒なそいつは、つ……と、上を示した。

「あの女からは、ここが見える。お前たちが、奈落に吸い込まれる姿を、見せてやりたかったから」

そのどこか幼稚な声と言葉遣いに、レルダの帽子がピクリと動いた。

「奈落に落ちるのはおみゃーだっぺよ!!」

ライドが叫ぶと共に、空から雷が落ちた。
その黒い布で分散させたのか、直撃はしていない。
ガガガガと、雷にしては恐ろしい音が辺りを包んだ。

「お前たちに、負けたりしない」

そこに立っていた黒がこちらへ歩いてきた。
歩いているくせに、一瞬でその距離をつめられる。

「遅いです!!」

マーナがそう足を振り回したのは、1年間一緒にいたからわかったものの、目で追える速さではなかった。

「逃げ道ない」

髪の毛一本でそれを交わした魔王の後ろには、巨大なハンマーを振り上げたレルダ。
オレの後ろでは、ライドが次の魔力を集めている。

「……これが、お前の望みだったんだろ?」

そして、オレの望みだった。
コクリと、黒い布が動いたように見えた。
だから、神の降りる島で見つけたこの剣で、斬りつけたんだ。
逃げることすら、しなかった。
黒い布の向こうで笑った気がして、息が詰まった。

「カイトさまーっ!!」

奈落に呼ばれるようにして落ちていった魔王。
その魔王に向かって、上から声が降ってきた。

「この声、姫さまんじゃなか?」

「ウェンディさま!?」

確かに、魔王が示していた場所に、姫はいた。
泣きながら、そこにいた。

あとは、ハッピーエンド。
世界を、お姫さまを魔王から救った勇者が、平和になった世界でお姫さまと結婚する。
人々に祝福されて、時代は次の世代へと移り変わる。
ただ、今回はそうなりそうにないだけ。





──カイト、お前今日も泣いてるのか?

──……だって僕、魔王の生まれ変わり。また今日も僕のせいで犬が死んじゃった。

──……カイト!!向こうに姫さまが来てたぜ、見に行こう!!

──姫さまが危険だから、僕は行かないよ。


そこでオレがウェンディ姫を見に行かなければ、直後に母親を亡くしたカイトが死にたいなんて言わなければ、オレはこの計画を思い付くことなんてなかった。


──お姫さまをさらって、世界を恐怖に陥れたら、僕を殺してくれて、君も幸せになるの?

──あぁ!!来年、お前は行動しろ!オレはその1年後。世界が希望を失った頃に動く!!

──……わかった。


勇者は、世界を救った人間。それは平凡な村の子どもで、実は王族だったなんて話もあるかもしれない。
どうであろうと、勇者は助けたお姫さまと結婚できる。
そうやって、計画したはずだったのに。


──カイトさまは……、魔王なんかじゃないわ。もっと、もっと、本当は誰よりもお優しい……。

──ウェンディさま。魔王は私たちが倒しました。そのような洗脳は、

──マーナ、信じて!!カイトさまはお優しい人だったのです!!私は、そんなあの人を……っ!!


計画は丸つぶれ。
ウェンディ姫から見れば、カイトを殺したオレは魔王。
魔王が勝利した、おかしな世界。

世界は平和になった。

けれど、勇者はただの村人に戻って、お姫さまと結婚することもなかった。


ただ、何がいけなかったのか分からず。
本当は、何がいけなかったのか知りながら。

次の世代へと移り変わる世界を目に焼き付けた。





──世界は、今日も平和。
─────────────
書きたいのはもうちょっと違うはずだったんですけど……。
勇者のパーティなんか書く気なかったんですけど、レルダが気に入りました(笑)
なんで戦闘シーンなんて書けないくせにorz

勇者が全ての根源で、正義が悪だったらの話。
お姫さまに一目惚れしちゃった勇者の勘違いのための3年の過ちです。
うぅっ!!
もっと違う感じで書けたらよかったのに!!(設定無駄に気に入ったんです、笑)


(20100123)


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