塵の結晶

□一言だけ……
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どうすることも出来ないまま、私はアエルの羽根が失われるのを見ていた。
私の瞳はカラカラにかわいている。……それは、まばたきをしていないから。
最後まで、アエルの罪から目を背けたくないから。
私の羽根は不恰好に濡れている。……それは、私のかわりに泣いているから。
こんな時でも、優しく微笑むアエル。
こんな時でも眠そうなアエルの羽根。
言いたいことはあるのに、いっぱいあるのに。
声はこの空間を汚してしまう気がして、何も出てこなかった。
別に、この空間が聖なる場所なわけじゃない。
どちからかというと、汚れているのだろう。
でも私には、とても聖なる、清らかな空間に感じられる。

「リーフ。泣くなよ」

その空間で声を出したのは、他でもないアエル。
そんな彼を罵倒することが出来ず、そんな彼に返事をすることが出来ず、弱々しいアエルを見つめる。
泣いてなんかいない。
泣いているのは、私の羽根でしょう!
反論はできる。けど、口がひらけない。ひらかない。
ヘタをしたらくちばしってしまうかもしれない。
泣かないのは、アエルの姿を見ていたいから。
アエルの姿を、最後まで見ていたいから。
そう……くちばしってしまうかもしれない。

「リーフ。泣くなよ」

彼は再びそう口にした。
汚れていくと思ったけれど、逆に少しずつ霧が晴れていくような気がした。
だから私もゆっくりと口を動かした。



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