塵の結晶

□嘘つきたちの集い
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その空間は静まり返っていた。
この静けさの中で髪の毛一本が床に落ちたならば、全員が気づくだろう程。
だからこそ、サクラの小さな笑いは、高くアヤメの耳に響いたのだった。

「な……何がおかしいのよ!」

手に持っている紙切れを震わせながら、アヤメはサクラを睨み付けた。

「そんな紙切れで私に勝つつもりなのかな?って思っただけよ」

ニコリと悪魔が天使に化けたような笑い方で、続けて。とアヤメの行動を促したサクラは、数秒先には自分のものになる勝利に微笑みを深くした。
アヤメの手先は不安からか、怒りからか震えていて、その瞳はいつ洪水がおきてもおかしくないほどに揺れていた。
そんな様子のアヤメを見たスミレは、心配そうに顔を歪ませると彼女に近寄っていった。
そのスミレを止めたユリの表情は、紙切れとにらめっこしているせいか見えなかった。

「スミレ、自分のことに集中したら?」

「そーそ、泣けばなんとかなる。とか思ってる子にかける言葉はないもんねー」

ユリを後ろから抱き締めようとしたウメは、ユリから肘鉄を喰らいながらも笑っていった。

「でも!」

「あぁ、そっかー」

スミレの言葉を遮ったウメは、思い付いたように笑った。

「スミレは、アヤメが怖いのか。いつ逆襲されるかわかんないもんねー」

「みんなよってたかってアヤメを苛めて楽しいの!?」

「それならお望み通り、次のターゲットは……」

手元の紙切れをチラリと見たサクラは、スミレに眼光を向けた。

「スミレだね」

アヤメが震える手で中央に置いた嘘は、何の咎めもなく過ぎていく。
いくつかの時間が過ぎた。
そうして、スミレの右隣にいたサクラは笑いかける。

「次、スミレの番だよ」

回ってきた自分の時に、スミレは紙切れを見渡した。
隣ではサクラが4枚の紙切れを裏にして見せてきた。
悔しそうに顔を歪めながら、スミレは1枚の紙切れを中央に置いた。

「……2」

そう、スミレの口が動くと、待ってましたとばかりに3人の声があがった。

「「「ダウトー!」」」

それを聞いたスミレの表情は歪んだものから、晴れやかなものに変わった。
不思議に思ったアヤメが中央に伏せられていた紙切れを開く。

「あ、ジョーカー」

「「「え!?」」」

3人の反応を見たスミレは、楽しそうに山盛りになった紙切れの山盛りをさす。

「さて、誰がもらってくれるのかしらねー?」

オホホホと笑うスミレは少しだけ怖く、先ほどまで威勢のよかったサクラの喉はうっ。と詰まる。

「仕方ないわね……ここは平等にじゃんけんでいい?」

「えー、やだー。ここは3人できっかし分けようよー」

ブツブツと文句を言う3人を上から見下ろしつつ、スミレは笑っていた。

「ふ、これは私の勝利が約束されたようなものね」

「スミレ、でもあたしあがりだよ。3!」

「「「「え?」」」」

アヤメが、手元にあった最後1枚の紙切れを中央に置く。

「じゃ、私にケーキを買ってきなさい!」

スミレの、ユリのウメのサクラの手元にあった、紙切れがバサバサと音を立てて落ちていく。

「その辺の100円ケーキ買ってきたらダメだよ。ちゃーんと高級感たっぷりのね」

ルンルンと楽しそうに音符を歌いながら、アヤメは散らばっていた紙切れを纏めていった。
動かない4人に、アヤメはニコリと笑う。

「ま、嘘はいけないってことだよね」





仕方なしにケーキを買ってきたスミレは、それを持って去っていったアヤメの背中を見ながら小さな声で呟いた。

「ってか、なんでたかがトランプでこんなもりあがったんだっけ……」

「アレよ、アレ。……あれ?アレってなんだっけ」

「嘘発見器?」

「違うわよ。……違うことしかわからないけど」

そうしてため息をついた4人は、アヤメによって片付けられたトランプを見つめた。


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