一番上の引出し

□一番に君へ報告
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やっと帰ってきた。
この間は忙しそうにまた出ていったけど、今度はちゃんと帰ってきた。
……女の子を3人も引き連れて。





「何回言ったらわかるのよ」

2階にある私の部屋に窓から侵入してきた緑頭に、小さくため息をついた。
やっぱり窓の近くにのびている木を他に移してもらおうか、考えて諦めた。
きっと何をやったってこいつは入ってくる。

「ま、固いこと言うなよ」

普段見せるあの意地の悪そうな笑顔じゃなくて、本当に楽しそうに笑いだした。
ちょっとムカついたからその頭に乗っかっていたキャスケットをとった。

「あ、返しやがれ!」

手を伸ばしてきたから、ちょっと逃げる。

「家の中で被ってるとハゲるよ?」

あぁ、しまった。
頬を持ち上げたスパーダを見て思った。何て笑い方するんだ、この男。

「返せっつってんだろうが!」

「いやー!!」

広めの部屋の中、本気で逃げた。あの形相は恐ろしい。
しかもムカつく。何がムカつくって、スパーダが本気で追ってくれば私なんか敵うはずもないのに、一緒のペースでじゃれてくるところがムカつく。
だって、ほら。

「ぅおらっ!!」

こうやってベッドに倒されて、簡単に捕まる。
何で私と一緒にいてくれるかがわからない。

「……何で?」

「はぁ?」

「何で、これがそんなに大切なの?」

もう汚れまくっていて、何故か……まぁ、スパーダだから当たり前なんだけど、血を洗い流した跡がついてる。
ずっとずっと、旅から帰ってきた時もかぶっていた。
それはすごく嬉しかったけど、何で?

「何でって、決まってんだろ」

ベッドに預けていた体を、スパーダがぐいっと持ち上げてくれた。
何で目を開けているのに真っ暗なのか。

「お前がくれたから」

あぁ、このにおいはスパーダのにおいだ。しばらく忘れていたかもしれない。

「……かわいい女の子3人も一緒に旅してたくせに」

ボソッと呟いてしまった自分を呪う。
絶対に聞こえていただろうスパーダが私をひっぺがそうとしたから、あえて抱きついてやった。
こんな赤い顔、見せられない。あぁ、でもこうやって力の限り抱きつくのもだいぶ恥ずかしい……。
っていうか!スパーダはもっと本気でやれば私なんてすぐにひっぺがせるでしょうに、何で微妙な力加減かなっ!?

「何?もしかしてあいつらに嫉妬してんの?」

「してるわけないでしょ、バカッ!!」

あぁ悔しい。たかがスパーダごときにこんなにも弄られるなんて。

「おら、顔見て喋れ」

ついにベリッとひっぺがされて、しかも私のすることがわかっていたのか、下を向かないように顔を固定された。

「そうオレに言ったのはお前だったよな?」

あぁ、本当にムカつく、この男はいったいなんなんだ。

「うーーー」

「犬か、お前は。んなんシアンだけで充分だ」

また、知らない名前が出てきた。
スパーダの手が外れたからうつむいてしまおうとしたら、ベチンッと頬が音をたてた。

「ん?……いったーい!」

「反応遅くね?お前」

また笑われたことに、怒りで体が震えた。

「だいたいイリアたちは」

ブチッとどこからか音がでた。

「うるさい!何よ、私のいないところで楽しんじゃってさ!!別に文句なんかないけどね。スパーダのいない間私がどんな気でいたか知ってる!?別に文句なんかないけどね。だいたい両親がいつ新しい縁談持ってくるかわかんないし、すっごく怖かったんだからね!別に文句なんかないけどね。そのイリアちゃんやらシアンちゃんのとこ行ってくればいいでしょ、ばかーっ!!」

言い終わって、息があがる。
スパーダの顔を見れば、この男はいったい何回瞬きしてるんだ。
……そこまで観察した後、逃げた。
私、何言ってんの!?どんだけわがまま女!?っていうか100%嫉妬だらけじゃな「待てよ!!」

「ぐぇ」

部屋から出るより早く、体当たりという方法で私の逃亡は阻止された。

「ここは普通『きゃっ』とかって声あげるべきだろ」

また笑いだしたこの男は本当に……。

「うるさい。だったら普通体当たりじゃなくて抱き締めるべきでしょ!」

「何?抱き締めてほしかったか?」

「違う!」

振り返れば、額に柔らかいものが触れた。

ん?

「バーカ。こんなオレを想ってくれるヤツをおいて、他の女んとこに行くかよ」

「ス……スパーダはひねくれてるからわかんない」

ちょっと待って、この男なにしたの?

「んじゃ、そんなお前にいいこと教えてやるよ」

さっき額に触れたものが、今度は右頬に触れる。

「オレ、海軍に入れることになったんだぜ?」

「……あ、ちゃんと自分で働けるようになったんだ。おめでとう」

ずっと家に縛られるのが嫌で、それでも騎士の志だけは忘れていなかったスパーダが、ちゃんと歩きだした。

「そんで、これ、他のヤツは誰も知らない」

「へ?」

左頬。

「だから、まだイリアもアンジュもエルもルカも、おっさんも……っと、あとシアンももちろん知らねぇ」

口?

「お前に一番早く言いたかったんだよ」

なんか悔しかったから、今度は自分からその口に向かっていってやった。





──安心したか?

(……してない)(は?)(海軍っていったら危険だし、王都から離れることもあるから会えないじゃない)(……!!)(あぁもう!抱きつくなバカーっ!!)

─────────────
思った以上に長くなりまして……。

スパーダがつかまってからずっと心配してたのに、戻ってきたと思ったら女の子わんさか連れてきてそれに嫉妬した婚約者の話(笑)
一応婚約者です。別にいらない設定ですけど、なんとなく。
なんか貴族の女の子って気が強かったり、意地っ張りなイメージがあります。

……スパーダって海軍はいったんですよ……ね?
違ってても気にしちゃいけませんよ!
そしてスパーダは最後までシアン“ちゃん”に何も言いませんでした。
いつか2人が会った時どうなるか……(笑)

……リオンとシンクのもできたんですが、あまりにもの出来だったんで紙をぐちゃっとしました(笑)


そんなこんなで、漆さまの風待ち少年に参加させていただきました。
こんなので大丈夫だったでしょうか?
すごく楽しかったです。ありがとうございました!!

(20091227)


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