小説「あけぼし」
□あけぼし
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夕陽に照らされた細い路地を、
風呂敷を抱えた老婆が一人、
足速に歩いていた。
廻船問屋「松屋」に奉公して50年。
家族同然に松屋を支えている、ミヨである。
ミヨが大事そうに抱える風呂敷の中には、
これから訪ねる人への贈物が包まれていた。
古い小ぢんまりした日本家屋が立ち並ぶ通りで、
一際地味な家がある。
高い垣根で中をうかがい知る事はできず、
人が住んでいるような気配も感じられず、
周囲に住む物はその存在すら
忘れてしまいそうな家。
ただ時折
通行人を引き止めるよう、
ほんのわずかに
香しい花の匂いが
こぼれてくる。
そこがユウの家。