敵が来る!!
「くるね‥」
「そうみたいですね。」
久しぶりに宿が取れた夜。
どうせなら、昼までゆったり寝ていたかったのに、
カス程のモラルすら持ち合わせていない妖怪達が、こちらに向かっているのが気配で分かった。
ため息と共に布団をどける。
「…はぁ、起きなきゃ。
三蔵、起きて起きて」
今日は、部屋が一つしか空いていなかったので、止むを得なく皆で並んで寝ていたのだ。
横に寝ていた三蔵の体を遠慮なく揺らす。
すぐに不機嫌そうな舌打ちが聞こえてきた。
「………起きている。」
「あっそ…。
ねぇ、八戒電気つけちゃ駄目?」
「駄目ですよ♪
敵さん達がこの卑怯極まりない作戦が、成功して喜ぶ顔を、
ここぞとばかりにぶん殴るのが、楽しいんですから。」
暗くて前が見えなくても、八戒がどんな顔しているかだけはよ〜く分かった。
暗闇よ。ありがとう。
「なぁなぁ、俺のマント知らねー?トゲトゲ付いてるやつ」
「えっ、悟空、確かあんたこのあたりにおいてなか…
「いってぇ〜〜!!!!」
そう広くもない部屋の中を、哀れ寝起きの悟浄の叫びが響き、跳ねているのか、床がきしむ音がした。
…踏んだな、あいつ。
思わずにやけてしまう。
他人の不幸は密の味って言うからね。
「ところで、皆さん。」
「ん、何?八戒。」
多分、正面にいるであろう八戒を見る。
何だか、様子がおかしい。
「僕のモノクル知りません?」
「みなのもの動くな!!動くんじゃねー!!」
ピシリと緊張した空気が部屋を覆い尽くす。
痛みに耐えきれなく跳ねていた悟浄も、声にならない声を出しながら、跳ねるのを止めた。
「動くなよ、動くんじゃないわよ、
動いたら一環の終わりなんだからね!!
踏み潰しちゃうんだからね!!」
「いや、コンタクトじゃないんですから、そこまで慎重にならなくても…」
ミチ…、
八戒が一歩踏み出した瞬間、足元から鈍い音がした。
誰も何も言わない。
…いや、頼まれても声を出したくない。
沈黙が重い。
「おい、」
そんな沈黙をぶち壊したのは、まだ眠たそうな声の三蔵。
流石三蔵様!今流行りのKYですか?
「俺の服はどこだ?」
end