頂き物

□ハロウィン
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「ハロウィン」

Trick or treat?

「ハロウィン?」
耳慣れない言葉に、ギロロとゼロロが首を傾げた。
「知らねーの!? お前ら!」
そんな二人の前で、ケロロが得意そうに胸を張る。
「ポコペンのお祭りかなんかでさぁ〜、色んな仮装して家を回って、
“お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!”って言うんだって。
お菓子くれない家には、いたずらしていいんだってさ〜!
それが、今夜なんだよ!!」

今年はケロン星で、ポコペンの色々な行事を真似するのが流行っている。
いたずらにお菓子、とくれば、ケロロが張り切らないはずがない。

「ふーん、面白そうだな」
「そういえば、ボクの家でも、お菓子をたくさん買ってたみたい」
「ケロ〜! 楽しみだなー! なあなあ、どんな仮装する?」
三人はあれこれと仮装の案を出しながら、今夜の待ち合わせ時間と場所を決め、
それぞれの家へ帰った。

「今夜は出掛けてはダメよ、ゼロロちゃん。お熱があるじゃない」
赤い顔をして咳込んだゼロロを見咎めた母親が、体温計を見ながら言う。
「ええ…!? だって、今日、ハロウィンだから、みんなで…」
「ダメよ。今夜無理をしたら、また入院するようになってしまうわ。
そうしたら、ずっとみんなと遊べなくなってしまうのよ?」
ゼロロは黙って俯いた。
ケロロやギロロと、ずっと遊べなくなってしまうのは、もっとつらい。

「さ、お薬を飲んで、ベッドにお入りなさい。
うちで配るお菓子、ゼロロちゃんの分はここに置いておきますからね。
ギロロさんには、ママからお電話を入れておくわ」
「…はい」
頭まですっぽりと布団を被ってしまったゼロロを、母親は布団の上から優しく撫でた。


――― Trick or treat!
甲高い子供たちの笑い声やさざめきと共に、家の呼び鈴が鳴っている。
……ああ、みんなが、ボクの家にも来てるんだ。
そのうち、ざわざわというざわめきが遠去かっていく。

……ケロロくんも、ギロロくんも、行っちゃう…。
待って、行かないで…。
ボクだけ置いていかないで…。
「…くすん、くすん…、ヒック…」
布団に潜ったまま、ゼロロは堪えきれず嗚咽を漏らした。

「…泣くなよ」
突然枕元で聞こえた声に、ゼロロは驚いて布団から顔を出した。
ベッドの脇に、ドラキュラの扮装をしたギロロが立っている。
「ギ、ギロロ…くん?」
「ごめん。窓から入ってきちまった」
ギロロは照れ臭そうに頭を掻く。
「…お前が、泣いてるような気がして、さ…」
「……」
ゼロロは涙で言葉にならず、ギロロに抱きついた。
「泣くなってば」
ギロロはゼロロが落ち着くまで、優しく背中を撫でた。

それから二人でお菓子を分け合って食べた。
お菓子をもらえなかったケロロがいたずらを仕掛けようとして、
その家の番犬にしっぽを噛まれたことや、
ギロロの家で、逆にガルルに脅かされて、全員が腰を抜かしたことなどを、
面白おかしく話すギロロから聞きながら、ゼロロは涙を流して笑った。

お菓子をあらかた食べ終わる頃、ギロロが時計を見て立ち上がる。
「あ、俺、もうそろそろ行かなきゃ。
帰り、ケロロと待ち合わせてんだ」
「うん。ボク、とっても楽しかった。
ありがとう。ギロロくん。
あ…、でも、ギロロくんのお菓子、なくなっちゃったね」

ゼロロはふと、母親が置いていったお菓子に気付く。
「そうだ、お母様がボクの分、とっといてくれたんだ。
ギロロくん、これ、持って帰って?」
にっこりとお菓子を差し出すゼロロを見て、ギロロは真っ赤になって呟く。
「……より、」
「え?」
聞き取れなかったゼロロが小首を傾げて耳を寄せる。

「お菓子より、ゼロロが、いい…」

遅れて真っ赤になったゼロロは恥ずかしそうに俯き、そっとマスクを外した。


ちゅ。



初めてゼロロからくれたキスは、仄かなカスタードクリームの香りと、
甘い、チョコレートの味がした。
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