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□小児科スパイラル
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「迷子の迷子のあたしですっー」

それは、迷惑なくらい大きな声で歌う。

「行きたいお部屋はどこだっけー?」

「それ、行く場所を忘れた感じっスか?」

「あ、ふじもん!」















「だからってつばささん、大声出しすぎっスよ?!一応ここ、病院なんスから・・・!」

「あはっ」

笑って誤魔化せば、なんとかなる。

そう信じてこの年まで生きてきた、適当人間こと色無つばさ。

彼女も一応、この星白病院で働いている。

しかし彼女は医師や看護師ではなく。

「大体、小児科の飾りつけ位の時しかちゃんと院内入らないもん!」

院内託児所の保育士として、ここにいる。

季節の変わり目や、イベントの時などには保育士の出番となる。

小児科のお部屋を子供が入りやすくするため、壁飾りなどを手がけるのだ。

今日も季節の変わり目ということもあり、早速飾り替えを行っていた。

「つばささんの飾り、可愛いって人気なんスよ!」

「わーホント?嬉しいなぁ」

さりげなく藤本に案内役を託し、勝手について歩く。

藤本も、彼女の方向音痴を知っているため気にも止めない。

「さ、ここっスよ!お願いします」

「了解!頼もー!!」

藤本に対し敬礼をすると、ノックもなしで勢い良くドアを開ける。










「あ、つばさ」

その先にはまるで周りにお花畑が見えるような、満面の笑みを浮かべている人物に名前を呼ばれる。

「あ、緑せんせー」

こちらも負けじと満面の笑みを向ける。

「そろそろ来るんじゃないかと思ってたよ」

「仕事なんだから、当たり前ですよー」

「今日も相変わらず、気持ち悪いなー」

「あら、お互い様で」

実はあまり仲が良くない2人。

と言ってもつばさがそう思っているだけで、緑はいたって通常営業だ。

藤本はなぜ2人の仲、つばさが一方的に緑に対し嫌悪感を抱いているのかは知らなかった。

ただ。

「そんな所にいると、間違って画鋲飛ばしたくなっちゃいますね!」

「つばさこそ、無駄口叩いてたら間違って自分の手を刺しちゃうんじゃない?」

「さすがのあたしでも、そこまでしませんよー。緑せんせー、おつむ大丈夫ですかぁー?」

「んー。つばさはちょっと、脳を見てもらった方が良いかもね」

なんて会話が終始笑顔で行われていたら、M属性の藤本にもなかなか堪えるものだった。

しかもそれは藤本の経験上、作業が終わるまで続くと予想されていた。

前回は偶然にもお菓子を持っていて、その話題に切り替えて凌いだ。

しかし、今回ネタに出来そうなものを何も持っていない。

最近はTCGもあり、浮かぶ話はサバゲーのことばかりだった。

そしてなにより、つばさはサバゲーをしていない。

しかめっ面をして話すネタを考えてる藤本を他所に、つばさと緑の言い争いは続いている。

しかも、内容はどんどんエスカレートしていく。

普段こんなに言い争いをしない緑だが、つばさに対しては容赦なく言葉を降り注ぐ。

そんな2人を見て、藤本は思い出した。

「そう言えば、冷蔵庫にプ「ふじもん、待て」

話し出そうとする藤本を、緑が止める。

しかしその制止は無意味であり、聞こえてはいけない人の耳にしっかりと入っていた。

「そう!!プリン!!あたしのプリン食べた!!!」

さっきよりも血相を変えて叫びだす。

「はぁ・・・つばさ、うるさいよ?」

緑はそう言いながらも、藤本に“後でお仕置きだから”と目で訴える。

「だって!!許されることじゃないでしょ?!人のもの勝手に食べるとか、信じられない!!」

もはや怒りで作業する手が全く進んでいない。

「食べ物の恨みぃぃぃ!!!」

冒頭の穏やかさが恋しくなる程の変化を見せるつばさ。

「でもつばさ、太ったんでしょ?」

緑が涼しい顔で言葉を放つ。

つばさは急に全ての動きを止める。

それはまるで、蛇に睨まれたかのように。

「・・・ちょっと待って、なんで知って・・・」

やっと絞り出した声は、先ほど鬼のような形相をしていた人から発せられたとは思えないほどのか細い声だった。

「まぁ、運動不足だよね。だからサバゲーに誘ったのに」

「え、そーなんっスか?」

それは藤本も初耳だった。

「うち、3人でギリギリだし一人くらい欲しいなと思って」

しかし、つばさは難しい顔をする。

「で、でも・・・。」

何かを考えて、一度下を向いた顔を上げる。

「・・・怖いじゃん?」

緑も藤本も、目を見開く。

思っていたよりも、つばさはあざとい反応を見せた。

「・・・つばさに怖いなんて感情、あったんだ」

いつも余計な一言をワザと発してしまうのは、緑の悪いところでもある。

「もー!!ホント失礼!!作業終わったし、戻るっ!!」

そう言い残すとつばさは、また勢いよくドアを開けて出て行く。










小児科スパイラル










「緑さん、最後の一言はいらなかったんじゃ・・・」

「何言ってるのふじもん、ワザとに決まってるでしょ?」

「そーなんスか?」

「うん、ホント面白い反応するよね、つばさは」

「そんなにいじめなくても・・・」

「俺、あういう反骨精神の塊みたいな子、いじめたくなっちゃうんだよね。・・・あ、ふじもん出番だよ」

「・・・また迷子の歌っスね」

まだまだ戦いは続く。

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