平凡無縁日記。
□第0幕 神頼み
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ビシッ
「いて!!?」
デコにデコピンをお見舞いしてやった。
「こんのヤロ…」
「ふふーん、一喝! そんでもって気合い入れ直し! 頑張ってこい! 我が弟よ! あたしと塩がついてるぜぃ!」
デコを押さえ怒りに震える五樹に、そう言いニッと笑いかけた。と、五樹はそれにポカンとした表情を見せたかと思うと、フッと笑い
ビシッ
「痛あ!?」
あたしのデコにデコピンを喰らわせた。
「バーカ、塩が何してくれるってんだ」
「塩を舐めるなよ! いや舐めなきゃダメだけど、舐めるなってのは塩をあのっ……あれ、何が何だかさっぱり…」
「あーはいはい、舐めねーからさっさと行けっ」
と、混乱するあたしを半ば家から追い出した。
「うーわー、実の姉をこんな扱いするとかマジ無いわー」
開く気配のしないドアに向け苦笑混じりのため息を吐き、学校に向かう道を走りだした。
何時もと同じ風景の中を走り抜けていく途中、ふとあるものが目に留まり足を止めた。それは、神社の鳥居だった。普段なら目に留まってもスルーするのだけど、今回はそれをジーッと見つめる。
そう言えば、神社にはお賽銭箱があったっけ……と思い出し、五樹の受験の事も重なり神頼みといきましょうかねと学校の事など忘れ神社の長い石段を上っていく。
上っていくと、社を始め周辺に人の気配は感じられず、木々を撫でる風の音が妙に大きく聞こえた。
「この神社初めてきたけど、ちゃんと掃除とかしてるのかな〜」
辺りは落ち葉が散乱しており、とても神を祀っている場所とは言い難い。そもそも地元の神社なのに今まで一度も足を運んだことがない時点で、自分でもどーかと思う。あたしが受験だった時は、別に神頼みなんかしなかったし。
そんな事を思いながら、お賽銭箱の前へとやってくる。そして財布を取出し、
「いよっし! 奮発して100円入れてあげようではないか!」
みみっちいとか思わないでください。だってお賽銭って普通10円とか1円じゃない? え、1円はない? そうですか……。とにかく! 私的にお賽銭は10円って考えを今だけ曲げ、100円なんて入れちゃうんだから、絶対絶対合格してよね!
その100円玉をお賽銭箱に入れようとして、思い止まった。そうだ、塩も一緒に入れよう。きっとご利益アップだよ。
私はカバンから、塩の入っている小瓶を取出し、栓を開け100円を持っている手に中身を少し取り出す。そして手にある塩と共に、100円玉をお賽銭箱に投げ入れた。それを確認し、手を顔の前で合わせ目を閉じる。
どうか、五樹が高校に合格しますように――……
すると、
パカンッ!
「おっめでとーございまーす!!」
「わああ!!?」
突然そんな声と、なんかくす玉が割れるような音にびっくりし、慌てて目を開く。そこには、
「いやーおめっとう嬢じゃん! あんたがこの賽銭箱に賽銭を入れた100人目の人や!」
なんか……お賽銭箱の上にフヨフヨと浮いている関西弁っぽい喋り方をするお兄さんと、その横にこれまたフヨフヨと浮いている割れたくす玉があった。
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