平凡無縁日記。

□第0幕 神頼み
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「ゆ……幽霊―――っ!!!」

「まっ待て幽霊ちゃうわ! ちゃんと足あるっちゅーねん!」


 幽霊じゃないと否定するお兄さんは、自分の足を見せる。足は透けていなかった。


「じ…じゃあ何!? お化けっすか!? いやーっ寄らないでー!!」

「だーからそんなんちゃ……ってぶはっ!! 塩っぱ!! 塩かけんなコラァ!!」


 恐怖と混乱のあまり、お兄さんに塩をかけまくった。








10分後。


「やっと落ちついたか」

「はい……」


 今だ宙に浮いているお兄さんは、疲れたようにため息を吐いた。


「それで、お兄さんは何なんですか?」

「オレか? オレはこの神社の神様や」


 お兄さんは自身を親指を立て示し、いやに自身たっぷりに宣言した。


「バカ言わないでください。あなたみたいなバカ丸出しの人が神様なわけないじゃないですか。もっかい塩かけますよ、て言うか塩で埋めますよ」

「バカ丸出しとか失礼やな嬢ちゃん! てかなんで塩やねん!! 賽銭箱にも賽銭と共に塩入れる嬢ちゃん、いや人間は初めてみたわ!!」

「なんでそれを……まさか、スト」

「だーかーらー!! オレはこの神社の神様やってゆーたやろ!! 嬢ちゃんの行動はこの神社に来たときから全部お見通しや!! 嬢ちゃんが賽銭に100円玉を入れたことも、奮発して100円玉を入れたこともや!!」

「そんな事まで……」

「どーや? 信じたか?」


 口に出していない事まで言われちゃ、不本意だけどこの人を神様だと認めるしかない。あたしは嫌々ながらも頷いた。


「もの凄く嫌そうやな…オレそろそろ傷つくで」

「だってあまりにも神様って感じがしないから……そんな事より、さっきの100人目ってどういう事ですか?」

「いやなー、嬢ちゃんがこの神社に来て賽銭を入れてくれた丁度100人目の人なんや」

「あたしが? でも100人目って…」


 この神社は数十年前に建てられたもので、まだ新しいほうだ。それにしたって、今だお賽銭を入れた人があたしを含め100人しかいないことには驚いた。


「最近は神を信用する人間がめっきり減ってしもうたからなー。ここ数年は参りに来る人間もおらんし、暇で暇でしょーがなかったんや。そんなおりに、嬢ちゃんが賽銭入れに来てくれたんや、しかも丁度100人目。なんや嬉しくてつい姿を見してしもうたっちゅー話や」


 その話し振りからして、普段は人前に姿を現さないのだろうか? 考えていると、ふとお兄さんが思い出したように口を開いた。


「そーいや嬢ちゃん、さっき神頼みしたやろ? 五樹って奴が合格するよーにって。誰や?」

「え、五樹はあたしの弟ですけど」

「はーっ弟さんかい。そーかそーか」


 お兄さんは腕を組むと、うんうんと頷き自己解決をしてしまった。


「あの……」

「あーすまんすまん! 嬢ちゃんの弟さん、ちゃんと高校合格するで!」

「へ?」


 突然発せられた言葉に、間の抜けた声を出してしまった。


「あの、話が全然見えないのですが……」

「オレ達神は、願掛けした人間やその人間と関わりを持つ人間の未来がほんの少し見えるんや。そんで嬢ちゃんの弟さんの未来をちょいと覗き見したんや」

「覗き見……なんか発言が危ないですよ、あなたが言うと特に」

「何でやねん!!」







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