短編集

□光
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 光

 白に統一された部屋はこざっぱりとしてがらんとしていた。瞳を伏せてもはっきりと部屋の残像が揺れた。くすんだ白い天井に彼は顔を向けている。アルコールの匂いが充満した病室は窮屈で息が詰まりそうだ。ズキズキと身体が疼く。吐き出しそうになるのを抑えて声を押し殺した。

「すまない」

 幸村は天井にむいたまま何も答えなかった。俺に振り返ることはない。そうだ。それでいい。俺は約束を守れなかった愚かな男だ。どんな仕打ちも受ける覚悟でここにきた。

「俺は罰を受けねばならない」

 だから、と言葉をきった。否、それ以上言葉を紡ぐことができなかった。必死に押し出そうとする言葉ではなくて、別の何かが堰をきって流れ出してしまいそうだった。今の自分が目の前にいたら殴り倒してやったろうに。不甲斐無い。ギリと奥歯が音をたてた。

「だから俺は…」

「俺なりにけじめをつけようと思う」

 幸村は何も言わない。俺の声に答えて、ぴくりと身体を動かすこともなかった。俺は知っている。彼はまだこの世界に戻ってきてはいないのだ。彼の魂はあてもなく彷徨っているのかもしれない。
 俺は何もできなかった。指をくわえて彼の身体が日増しに細くなってゆくのを見つめることだけ。けれどもそれは痛みから逃げ出すための言い訳だった。
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