短編集

□レスキュー
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「神様ってこの世界にいるのかな。
 こんなにも苦しんでいるのに。
 なんで救い出してくれないんだろう」


 これもアダムが知恵の実を食べた罰かな、そういって幸村は笑った。真田はノートに書き込む手をとめて、くぃと帽子のつばを下げた。

「俺は神様なんて信じない。
 そんなもの幻想だ」

 ぶっきらぼうに答えを返し、真田は再びカチカチとシャーペンを鳴らし始めた。すらすらと整った字が白いノートを黒く埋め尽くしていく。時折赤や黄色の蛍光ペンを横から取り出してはノートに彩を加えた。
 幸村は静かにそれを見つめた。

「神様がいないのなら、
 人間は何にすがればいい?」

 風が白いレースのカーテンを揺らし、初夏の香を運んできた。スキマから差し込む日差しがまぶしくひかる。こつこつと真田のペンが机を叩く音がする。

「お前は何かにすがらなくては
 生きてゆけないほど
 弱い男だったか?」

 幸村はゆっくりと瞳を細めた。

「俺は強いよ。
 いや…
 俺は強くなくちゃならないんだ」

 真田は黙り込んだまま机に向かって記号の羅列を続けている。幸村は読む気の失せた教科書をぱらりぱらりと乱雑にめくった。

「強くあることに疲れたら俺にすがればいい。
 神様にはなれないが、
 俺はお前の心からの親友には
 なれるはずだ」

 そうだろ?と真田は唇だけを動かした。幸村は答えるように満面の笑みをたたえた。



「あぁ、
 だからこんなにも苦しいんだよ」


 パタンと音をたてながら幸村は本を閉じた。




 

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