短編集
□サニーサイドアップ
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サニーサイドアップ
「すげー!すげぇっすよ、
幸村部長。
デザートがついてるなんて
朝食から豪華ー!」
トレーの隅っこにのったプリンを指して、赤也ははしゃいでいる。珍しく朝早くからテンションが高いのは選抜合宿だからだろうか。
真ん中に陣取るのはカリカリのベーコンの上にのった大きな目玉焼きふたつと大振りのウィンナー。香ばしい香りのするバターロールの隣にはスパゲッティサラダが並んでいる。ゆらゆらと湯気を立てるコンソメスープは肌寒くなってきたこの時期にはありがたい。
そういえばおかずに炭水化物って体にいいのかなと幸村はふと思った。
「でも俺、
朝食は焼き魚が良かったなぁ」
「意外っすね。
幸村部長は洋食好きだって
思ってました」
「うーん、嫌いじゃないけどさ。
日によって食べたいものって
変わるじゃない」
「あぁーなるほど」
納得したようにうんうんと赤也はうなづいて、今俺は大盛りのラーメンが食いたいっすと大声で宣言した。
先ほどまで隣にいた赤也は丸井とジャッカルの元へ駆けていった。彼らのそばには青学のジャージが見える。あれはたぶん桃城だ。
いつのまにやら仲良くなったのか楽しそうに談笑をしている。
柳は幼馴染である乾の隣。四天宝寺の金色やら聖ルドルフの観月まで混じっているから、互いにデータの交換でもしているのだろう。
仁王と柳生は氷帝の宍戸と鳳らと朝食の席を囲んでいる。話が合うのかは定かではないが。
学校の枠なんて関係なしにそれぞれ朝食を満喫しているのだろう。
さて自分はどうしようかと食堂を見回すと、奥のほうになじみのある顔を見つけた。
「やぁ手塚、隣いいかな」
淡々とウィンナーをかじっていた手塚がうなづいたので、同意と解した幸村は彼の隣の席にに落ち着いた。
「醤油以外に俺はかけん」
「あぁーん?邪道だな。
塩にきまってんだろ?」
目の前では真田と跡部が声を張り上げて言い争っている。今にも殴り合いを始めそうなぐらい鬼気迫ったにらみ合い。どうりでそばに人が寄ってこないわけだ。
こんなことにも動じず表情一つ変えない手塚はやっぱり大物だなと幸村は妙なところで感心した。
「ところで…
今日の喧嘩の理由は?」
と問えば手塚はもぐもぐと口を動かすのをやめて「目玉焼きになにをかけるか」とだけ答えた。相変わらずどうでもいいことが争いの原因らしい。
会えば喧嘩するのに隣同士にわざわざ座るのだから案外仲がいいということなのかもしれない。本人たちは絶対違うと否定すると思うが。
「手塚は何をかける?」
「目玉焼きにか?」
「そう。いつも何かけてる?」
「醤油」
じゃあ真田と一緒だね、と幸村が聞けば、手塚はそういうことになるみたいだな、と言いながらプチトマトを口の中に放り込んだ。
「ほらみろ手塚は俺と一緒だ」
耳聡く幸村と手塚の会話を聞きつけ、心強い同士を得た真田は満面の笑みだ。対して跡部はひどく不満げに眉をよせている。
「手塚、てめぇ真田の肩持ちやがったな」
「ふん。手塚と貴様は違うのだ」
「おい、幸村。お前はどうなんだよ。
醤油じゃなくて塩だろ?」
うーんと幸村は考えこむように首をかしげながら、テーブルの隅にちょこんと座っていたビンを手に取る。
その直後だった。
あぁっと真田と跡部が仲良く悲鳴を上げるよりも速く、二人の目玉焼きの上に茶色い液体が豪快にぶちまかれた。
「強いて言えば
俺はウスターソースかな」
幸村はにこりと微笑んだ。