P4部屋

□シャングリラ
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 シャングリラ
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 足立はぼんやりと窓に反射した自分の顔をみつめていた。我ながらひどい顔だ。とぼけた顔はいつのまにか《足立透》の顔となってしまっている。俺はどんな《顔》だったっけ?

 店内放送は高らかにタイムセールを告げる。それに合わせているのか、主婦達の姿が多い。まるで足立の姿など見えていないかのように通り抜けていく。

 自分という存在がいてもいなくても何一つ変わらないのは東京にいた時と同じ。足立にはそれが心地よかった。いや、その筈だった。


「足立さんじゃないですか」


 足立が声に振り返るとそこにいたのは銀髪の少年だった。呼んでもいないのに彼はにこりと笑い、うれしそうに駆け寄ってくる。


「あぁ、悠くんか。今日は買い物?」

「はい。夕食の材料を買ってきました」


 悠は誇らしげにレジ袋を掲げてみせた。今日はカレーにするんですと彼はいった。カレーなんて久しく口にしていない気がする。


「あ。もう夕食きまっちゃってます?」

「え?」

「良かったら、家にきませんか」


 思ってもいない言葉かけられ、足立は狼狽した。そんなに物欲しそうな顔になっていたのかと思うとひどく恥
ずかしい。


「買い置きしたラーメンとか、まだあるし…」

「そうですか。でも、沢山作っておくので、気が変わったら家に来てください」


 足立の返事に悠は少し残念そうな表情を浮かべ、じゃあまたと手を振った。

 足早に去る少年の後ろ姿が見えなくなり、エレベーターホールは再び静けさを取り戻した。お人好しな所は彼の叔父によく似ている。何となくじっとしていられなくなった足立は、夕食用の弁当を買うためにカゴを取った。


 不意に携帯が振動を始めたのは、買い物を終えた時だった。画面に映るのは「堂島」の文字。レジ袋を左手に持ち変えて、足立は急いで電話を取った。


「今、どこにいる?」

「あ、いや、その。…ジュネスです」

「じゃあ、俺の家に来い」


 ピーと通話の終了を電話は告げた。返事をする時間も与えられないなんて、理不尽にも程がある。武骨な堂島の顔を思い出して足立はため息をついた。
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