短編集
□日常と非日常
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じっと見つめていたのに気づいたのか、また跡部は不機嫌な顔をした。手塚は自分のあたまがおかしな髪型だと思っているに違いないと決め付けている。
「似合っている」
思いのよらない台詞に跡部はメンを食らったようで目をしばたかせた。
「なんだよ、だったら変な顔して見つめてんじゃねーよ」
照れ隠しなのかぶっきらぼうに言い放つとそっぽを向いて頭をかいた。手塚は笑った。跡部も一緒に笑った。
いつの間にか彼と笑い会えるようになった。始めは他人。少しづつ彼を知り、いつしか言葉を交わし、かけがえのない友のひとりとなった。
「来年はうちの学校が勝ってやるからな」
「望むところだ」
手塚がゆっくりと手を差し出すと、跡部も手を伸ばした。触れあった掌は熱かった。心地よい温もり。感覚。跡部は名残惜しそうに握った手を離した。
「俺たちに二度も勝ったんだ。絶対に決勝までいって優勝を奪い取って来いよ」
にやりと跡部は笑った。
「絶対に勝つ」
始まりは非日常。非日常がいつか日常の一部に変わる日は来るのだろうか。
掌が熱い。もっと彼を知れたら良いのに。もっと近くにいられたら。
手塚は強く掌を握り締めた。