短編集
□kiss me please!
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「ねぇ…もうやめません?」
「駄目だ」
窓の外はオレンジ色の絵の具を空に撒き散らしたかのようにキレイな色に染まっている。もうすぐよい子は遊びをやめて家に帰れと高らかに命令するチャイムが鳴り響くだろう。
ほら、副部長。よい子は家に帰る時間ですよ?俺たちは見かけによりませんが健全な中学生です。
「ねぇ…「お前が終わるまでここは退かん」
「真っ暗になっちゃったら大変ですよ?今の時代は男の子でも危ないんですからね!」
「俺がのしてやるからまったく問題ない」
「副部長が勝てないくらいチョー強い漢かも知れないですよ!」
「俺が勝てない相手などおらん」
「幸村部長には手も足もでないじゃないですか。試合中じゃなくても」
「…」
よし、あともう一押し!
「帰らせてくれないならいっそ勉強しないでここで篭城します。副部長もず〜っと帰れないっすよ。こんな寒々しいところで夕飯もなく一晩過ごすんすか?」
「…わかった。だが少し待て」
そういって副部長は部室の外へ出て行った。
やった!!副部長から解放される!!
俺は急いで部室のロッカーの中から鞄をまさぐりだした。一刻も早く逃げ出してしまいたかった。
今日の勉強なんてまぁ…実をいわずとも上の空だった。だって目の前に副部長がいるんだから。しかもずっと俺のことを見てるなんて、今の俺にとっては拷問に等しい。
鞄の口が空いているのに気づかなかった俺は、ぐいと引っ張り出した瞬間に、一緒に入れておいた小物をばら撒いてしまった。ちっと舌打ちをしても勝手に集まってくれるわきゃないから、カンネンして拾い集めにかかった。
ガタガタとロッカーを鳴らしながら、転がりでてしまった整髪剤をとるためにぐっと奥に手を伸ばした。
もって帰るのがめんどくさいといっていろんなものを次から次にぶちこんできた結果がこれだ。ぐしゃぐしゃに丸めて押し込んで置いたジャージが俺の行く手をニオウ立ちして遮った。くそっと心の中で悪態をつきつつも、この間柳先輩に注意された時に片付けておけば良かったと後悔した。
あーもうと痺れをきらして俺はロッカーに頭を突っ込んだ。
やっと取れたと思った瞬間、ごとんという嫌な音と共に頭に強烈な衝撃が走った。
目の前がぴかっとフラッシュすると何が起こったのか理解する間もなく、そのまま意識がホワイトアウトしていった。