短編集
□ドール
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ついに彼と戦うことのできる日が来た。けれども彼は、初めて出会った時と同じように無表情で、何の感慨もない瞳で俺を映した。
よみがえるのは恐怖。俺の奥底でくすぶっていた恐怖心が目を覚ました。
だが、俺は必死に押し隠して気丈に振舞った。
そうだ。
俺は何も恐れてはならない。『王』だからだ。
ちらりと目の前の彼は視線を反らした。視線の先にあるものを見た俺の恐怖は一瞬にして怒りに変わった。こんな感情は感じたことがなかった。
何故だ?
何故目の前の俺を見ない?
彼の視線の先にあるのは別の人間。
俺はテニスにぶつけた。
行き場のない怒りを全て。
―勝った。俺は勝利を得た。
望み続けた勝利を。
しかし残るのは名も無い悔しさだけだった。彼は苦痛を刻み込むことはない。俺は痛みと共に忘れられるだろう。
ほしい。
俺だけのために。
「何もないなら話しかけるな」
手塚は静かに言い放った。どれほど近くに居ても彼の心には近づけない。別の世界の人間が触れ合うことはならないのか。
禁忌を犯して地獄に堕ちても俺は構わない。
だから一度でいいから
振り向いて。
あぁ神様。
「なぁ、今のお前が瞳に映すのは誰だ?」