P4部屋

□腐男子的!
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 腐男子的!
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 花村は壮絶に後悔していた。

 そもそもの発端はかれこれ一時間程前に遡る。

 花村は鳴上の家にきていた。人の家に訪れるのは久しぶりで、ワクワクしていた。そう、男友達の部屋にきたらやらなくてはならない儀式がある。

 それは、「エロ本」探しだ。

 ついに朴念仁の鳴上の鼻を明かす時がきた。ペルソナが「少し」ばかり多く使えようと、彼も人の子。そう決めつけて彼の目の前で万年床になっているらしい布団の下に、花村は颯爽と手を伸ばした。

 しかし、残念なことにあると思っていた感触はない。

「げー、あり得ねぇ。隠すならここだと思ったんだけどな」
「人の部屋に上がって早々、何やってるんだよ」
「エロ本探しに決まってんだろ」

鳴上は花村の凶行にも動じる様子はない。これはハズレ。まさか、この年頃でそーいうコトに興味がないはずはないだろう。

「ハハ…、お前ってそんなとこに隠してるのか」

 思わず花村は赤面する。逆に自分の隠し場所がバレてしまうとは。笑ってごまかすがこれはもうダメだ。

 確かに、小学生の従妹が同じ屋根の下の状況で、布団の下はまずい。巧妙に隠してあるならば、コイツはか
なりの強者だ。

 鳴上は結局それ以上は何も言わずに、鞄から漫画雑誌を引っ張り出して読み始めた。悔しいが仕方がないと諦めて、花村ももう一冊を手に取った。



「喉渇かないか?なんか飲み物取ってくるよ」

 読みふけっていて気づかなかったが、机の隅にある時計をみれは一時間近く経っている。読みかけの雑誌をたたんで鳴上は立ち上がった。部屋に残されたのは花村一人きり。これはリベンジのチャンスだ。

 部屋を眺めてみても怪しいものはない。机の引き出しも確認したが、きれいにシャーペンとマーカーが揃えてあるだけ。棚の裏にもなかった。

 時間は限られている。目についたのは本が並べてある棚だった。本屋でもらうようなカバーがつけっぱなしで、少し奥に並んでいる。階段を上がる足音。こうなればもう自棄だとカバーを外してみた。


 呆然と立ち尽くす鳴上。カバーをあけたまま身動きの取れない花村。

 おい、なんでこの本の表紙は男同士が抱き合っているんだよ。

 花村は壮絶に後悔していた。
 どうしてすぐに戻さなかったのか。いや、どうしてカバーを外そうと思ってしまったのか。選択肢は真っ白な空欄しかなく、表紙が焼き付いて脳みそがフリーズ
していた。

「花…村…」

 鳴上の声はうめき声に近く、花村は手のひらが汗ばんでいることに気付いた。あろうことかこんなタイミングで特捜隊解散の危機?解散しなくても会うたびに気まずいだろ、コレ。パニックに陥った花村は、これからのことも含め、取りあえず何か早急にフォローを入れなくてはならないと感じた。

「こ、こいつ、カッコいいな。この本面白そうだし、どんなストーリー?」

 一か八か。思いついた言葉を口にする。鳴上の顔色が変わる。

「花村!」

 突如、鳴上に抱きつかれた。想定外のことで全身から血の気が引く。彼が《ガチ》だとしたら、今の俺は一転して貞操の危機に陥っているのではないかと花村は戦慄した。

「お前なら…わかってくれると思ってた」
「な…鳴上…」
「お前も腐男子だったんだな」
「お…おぅ」

なんだか聞き慣れない単語が含まれていたような気がするが、鳴上のひどい興奮ぶりに気圧される形となった。

鳴上が引っ張り出した本や漫画を並べる。少女漫画的イケメンがズラリと並ぶのはある意味壮観だが、花村としてはかわいい女の子が居ないのがひどく残念だ。

「お前、スゴいな…。俺は勇気がないから…」

 買
えない。罰ゲームでも辛いわと花村は心の中で呟く。

「そうか。せっかくだから、これはどうかな?」

 鳴上は嬉々として花村の膝の上に本を重ねた。これはスポーツ物だとかミステリーだのラブコメだのしばらく熱く語られたが正直何か何だか。最後の貸すと言う単語だけは聞き取れた。

「今までこんな話できるヤツ、いなかったんだ。すごくうれしいよ」

清々しい笑顔の鳴上、ぎこちなく笑みを返す花村。これがノーといえない日本人の性か、奇妙な絆が結ばれてしまったような気がして花村は再び後悔をした。
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