トランキライザー

□No.04
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「さ……寒いなあ……」




あれからドアを叩いてみたり激しくノックしたり、揚句の果てにはドアを蹴破ってみようとしたりしたけど、結局エッダからの反応は無かった。



だからと言って、帰るわけにはいかない。というか、帰る手立てがない。
少なくとも、MZDが復活するまではココにいなくてはならない。



凍死しませんように……そう祈って、ドアに背を預ける。



指先や足先の感覚は、もうとっくに失っている。
呼吸する度に冷たい空気を吸うから、喉も苦しい。
油断すると、鼻水も垂れてくる。




「乙女としてマズイぞ、それは……」




ズズ、と鼻を啜り、眠らないように頬をペチペチと叩いた。




「……なんで、エッダはパーティーに参加したくないのかな……」




ちょっとした用事云々なら、MZDが揉み消すし……
過去のパーティーにも参加したがらない人はいたらしいけど……ミミニャミが無理矢理引き摺って連れて行ったら、結局満足して帰ってったんだっけ?



……ミミニャミなら、こういう時、どうするだろう?



二人がかりでドア蹴破って連行、とか……うわ、なんか想像できる。
でも、一人では厳しい作業だよなあ……





じゃあ、『私』に出来ることは……?




「……やっぱ、『説得すること』ぐらいかな……」




立ち上がって、ドアに向き直った。




「――ねえ、エッダ!お願い、聞いて!」




もう一度、拳を作ってドアを叩く。随分叩いたせいか、手が痛いけど……もう、構ってる場合じゃない。




「どうしてアナタがMZDに招待されたのか、私は知らないけど!MZDのお眼鏡にかなったってことは、アナタ、音楽が好きなんでしょ!?」




ズキン、ズキン、と手が痛む。大声をあげるもんだから、冷たい空気を吸い込んで咳き込みそうになる。



それでも、私は。



エッダに、ポップンパーティーの素晴らしさを、伝えなくちゃいけない――




「私ね、ポップンパーティーに参加したこと、ないの!だけど、こうやってアシスタントとして関われてるの、すごく幸せなの!」




何だろう、目の前が霞む。
限界が来ているのかも知れない。



それでも、一つでも多くの想いを伝えようと、私は口を開く。




「ポップンパーティーに参加した人はね、みんな笑顔になるの!私も、色んな人を笑顔にしたい!もちろん、エッダ、アナタも!」




脳裏に浮かぶ、ドアの隙間から見たエッダの表情。
……これ以上ないってくらいの、無表情。
見たのは、ほんの一瞬だったけど……それでも、エッダの無表情は、少しも動くことはなかった。



あそこまで、表情が硬い人は初めて見た……




「突然押しかけてきて、迷惑なのは分かってる!けど……けど!」




大きく息を吸い込んだら、急に苦しくなった。



だけど、構わずに無理矢理続けた。




「私は……エッダと一緒に、パーティーに参加したい!!」




――ガチャ…





言い切ると同時に、ドアが開いた。
だけど、私の身体はバランスを失って……前に向かって、倒れる。



ああ、こんな慣れない環境で、大声なんか出したからかな……



すると、私の冷たくなった身体が、暖かい何かに支えられた。



それが何なのか、確認する暇もなく……私は、意識を失った。

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