トランキライザー

□No.06
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エッダが何処かに消えてから、私はやることがなくなってしまった。



……まだ身体だるいし、もう少し眠らせてもらうか。



布団に潜り込み、ぼんやり考え事をする。



ミミニャミ、今頃何してるかな……
招待客の収集って……前回みたいに、酷いことになってなきゃいいけど……
海の底まで行った、とか言ってたしな……



あと、人外の割合がものすごく多くて……ウェルダンとか、アレ何?レベルだったもんな……



アレと比べたら、エッダはまだマシな方だよね……ウン。
一応、人の形してるし。



あーあ……ゲームしてえ……




――――ギシッ




「!」




またもや不自然な、ベッドの軋む音。



慌てて布団から顔を出せば、マグカップを持ったエッダが、少しうろたえた様子で私を見ていた。



もしかして、また熱が上がったと思ったのかな?
……無表情だけど。




「…………」




私の顔色を見て大丈夫だと判断したのか、エッダは私にマグカップを差し出した。
何だろう、と受け取りながら中身を覗くと、何やら黄色っぽい液体が湯気を立てていた。




「飲んでいいの?」



「…………」




無言で頷くエッダ。




「ありがとう」




お礼を言って、再びその液体を見た。
レモンみたいな爽やかな香りに混じって、甘い匂いもする。うん、美味しそう。
熱そうだったから、息を吹きかけて一口啜る。




「……ん、美味しい!」




私の予想は的中した。
なんだか懐かしい味に、体が楽になった感じがする。
ちらりと横を見ると、エッダもマグカップを持っていた。
……エッダの故郷の飲み物なのかな?




「エッダ、この飲み物は何ていうの?」



「……!」




何となく気になって尋ねてみると、エッダは目に見えて慌てはじめた。



……そうか、こればっかりは「はい」「いいえ」で答えられないもんね。



エッダは暫く考えるような仕草を見せたあと、ベッドの横にあった窓に手を伸ばした。
部屋が暖炉の火で暖まっているから、ガラスは水滴で曇っている。
エッダは、骨張った指でそこに字を書いた。




「…………」



「…………」




ごめん、達筆すぎて分からん。



しかも、書いたそばから水滴が垂れるもんだから、字が潰れて余計に読めない。




「あ、ありがとう」




とりあえず、空になったマグカップを返しながら礼を言うと、エッダはコクン、と頷いて部屋から出て行った。



残された私は、再び窓を見る。
エッダの書いた字の向こうに見える外は、真っ白な雪が積もっていて。
外は、少し薄暗かった。




「今、何時だろ……」




ベッドの上から部屋を見渡してみたけど、時計らしきものは見つからなかった。
仕方なく、ボストンバッグのポケットに入れていた携帯を取り出す。




「……ん?」




ディスプレイを開いてみると、画面は真っ暗だった。
電源を入れようとしたけど……まさかの無反応。




「えっ、故障!?」




慌てて振ってみたりしたけど、もちろん意味はないワケで。
私は愕然としてしまった。




「携帯ショップ……って、こんなトコにあるワケないよねえ……」




ミミニャミと連絡取ろうと思ってたのに……!



ため息が、部屋に響いた。













飲んでたのは、はちみつレモンの湯割り。
イギリス人は熱出た時にコレ飲むらしい。
シューゲイザーってイギリスに多いらしいから、エッダもイギリス出身ってコトにしたんだけど……アリ?


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