ゆめをみるひと

□たすけて!
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どくん、どくん、と刻まれる心音は、確かに私の耳に届いて。


ぎゅっと自分の肩を抱いて、闇の中に向かってじっと目を凝らす。


寒々としたコンクリートの壁に挟まれた狭いこの通路には何が潜むのか――




突然、地響きのような唸り声をあげながら、怪物が襲いかかってきた!



「きゃああああぁぁ!!」


「……何やってんスか」


「話し掛けないでください、今クライマックスなんです!」


「…………」



しまった、自分の悲鳴で女の人のセリフ掻き消しちゃった。


女の人がショットガンを勇ましく連射してゾンビ相手に立ち回りをしているのを、わざわざ持参した小型DVDプレイヤーの前で応援する。


……今、タランスさんに一時停止ボタン押されたけど。



「あッ、なにするんですか!」


「チミの方こそなにしてるんスか。仕事中っスよ」


「分かってます!分かってるんですけど、主人公がゾンビを皆殺しにするのを見届けないと夢の中とかでゾンビが襲ってきそうで怖いんです!!」



てゆーか、それレンタルだから明日までに返却しないといけないんです!


ちょうどタランスさんが一時停止したシーンでドアップになっていたゾンビ(…直視できない)を指差して、ね?と同意を促すと、彼は画面を一瞥して、鼻で笑った。



「こんなバケモノ、子供騙しにもならねえっス」



マジですか!?


驚異的な精神力をお持ちの方だ(イヤでもタランスさんだしなあ)と思っていると、いきなり再生ボタンを押された。


突然動き出したゾンビにびっくりして、少ししゃがみ込んでいたタランスさんにしがみついてしまう。


タランスさんが、不意にニヤリと笑った。



「今日は特別っス。この映画、最後まで観ていいっスよ」


「あ、え?」


「ただし……」



状況がよく飲み込めてない私を、タランスさんが後ろから抱え込むようにホールドした。



「目ぇ逸らしたらダメっスよ」


「え……ぎゃああっ!」



タランスさんの両手に顔を押さえ込まれて、無理矢理前を向かされる。


プレイヤーの画面には、ちょうどゾンビが共食いをしているシーンが映っていて、悲鳴をあげてしまった。



「うひゃひゃ……色気のない声っスねー」


「あ、ああ、ひゃあああ!!」


「あ、言っとくっスけど、ちょっとでも目ぇ逸らしたら舐めるっスよ」


「ひ、え、どどどどこを!?」


「目玉」


「も、もうやだああぁぁ!!」


「うひゃひゃひゃひゃっ」





たすけて!
(ったく、なんでホラー映画なんて借りたんスか)(好奇心で……)(バカっスねえ…ゾンビが出ても怖くないように、今夜はアタチと一緒に寝るっスか?)(正直言ってゾンビよりタランスさんの方が怖いです)(光栄っスねえ、うひゃひゃひゃひゃひゃ)(………)







この後様子見に来たメガトロンに「なにイチャコラこいてんだコノヤロー」って怒られる二人


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