野良猫の飼い方

□拾ってあげましょう
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別に、拾って欲しくなんか、なかった。






拾ってあげましょう






「あれ、きみ今朝も会ったよね?」


今日の天気はあいにくの雨模様で、僕はちょうど雨が降り出したときにマンションの目の前にいた。昨日は食料をたらふく食べられたから、今日は一日寝て過ごそうと思っていた。
だから目の前にあったマンションのエントランスの一角に身を潜ませ、昼寝をしていた。

せっかくひとが気持ちよく眠っていたというのに、何故か見知らぬ人間の女なんかに起こされた。どういうつもりなんでしょうか、この女。引っ掻いてやろうか。


「んー…きみ、迷子かな?とりあえずうちに来ない?温かいし、仲間もいるよ。うん、そうしよう」


起こしただけでも悪いというのに、その女は僕を抱き上げた。猫を相手にするのに慣れているのか、逃げられない。くそ、早く僕を降ろしなさい!本当に引っ掻きますよ、僕の爪は痛いですよ!


「ニャー!」
「はいはい、暴れないでねー」


女はそんなことを言いながらエレベーターに乗り込んだ。そして僕の顔を真正面から見る。僕は女を思いきり睨んでやった。


「……きみ、きれいな目してるんだねぇ。紅と藍なんて珍しいな、すごくキレイ。うちの子は全部真っ黒だから……。あ、身体は黒だからおそろいだね」


こっちは睨んでいるというのに、笑顔で話してくるから少し拍子抜けした。

おかげでうっかり、なぜかは良くわからなかったが、その後はおとなしくこの女の部屋まで運ばれてしまった。

いやいや運ばれてきたはずだったのに、この女の部屋の前まで来て他の猫の匂いに気付いて、僕は少し腹が立った。

この人の部屋に別の猫がいるのが、なぜだか無性に嫌だった。






拾ってあげましょう
あ、きみの名前、ムクロくんっていうんだ?






ペンダントに、名前とシリアルナンバーが書いてあったのです。ムクロは研究所から逃げてきた猫でした。

いつもより短め。







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