野良猫の飼い方

□優しく撫でてあげましょう
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他の生き物に、ましてや人間なんかに触られるのなんて嫌だったはずなんだ。

それなのに、この女の手はきもちいいだなんて、少しでも思ってしまった自分に心底吐き気がした。





優しく撫でてあげましょう





「ヒバリくんただいまー!起きてる?」
「……ニャア」


起きてるよ、と一言呟いた真っ黒ですらりとした猫は、この女に抱かれている僕をジロリと睨みつけた。視線が出て行けと言っていた。
そんなことお構いなしのこの女は、僕を床に降ろし、奥からやってきた黒猫を抱き上げた。すると黒猫の雰囲気が少し和らぎ、そのことに少し腹が立った。
…きっと、この黒猫が気持ちよさそうにしていたからだと思う。僕は別に、自分がこのひとに抱かれたいだなんて、そんなことは思っちゃいない。


「ヒバリくーん。いい子にしてた?ん、今日も抱き心地いいねぇ」
「ニャー」
「あ、この子ね、ムクロくんっていうの。今日は雨でしょ?だからとまってもらおうと思って」
「……ニャー……」


いらないよそんなやつ、追い出せばいいだろう。黒猫、ヒバリはそう言った。
別に僕だってこんな人間臭いところに来たくなんてなかった。だけれど、ヒバリにそう言われるのが僕の癇に障った。


「ニャー、ニャー」


だからヒバリの邪魔をするために、女の気を引こうと小さく鳴いて女の足元へ近づいた。
瞬間、ヒバリがピクリと耳を動かし、嫌な空気を出したのを感じた。それが、少しいい気味だと思った。


「ん?なあに?」


予想通り女はヒバリを抱いたままニコニコと僕を見た。そしてしゃがんで、僕の頭を撫でた。
その手思っていたよりもずっと暖かくて、柄にもなくキモチイイだなんて思ってしまった。

そんな自分が嫌だと思ったけれど、睨んでくるヒバリを見たらなんだかどうでも良くなった。まさか僕がヒトにほだされる日が来るだなんて、かけらも思ったことはなかったのに。

僕はヒバリに向けてニヤリと笑い、この家にやっかいになることにした。

女はやっぱりニコニコとしていた。






優しく撫でてあげましょう
ねえ、僕は君なんか認めてないんだけど。







ヒバリくん、ムクロが気に入らない。
ふたりとも独占欲の強いにゃんこなのです。









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