野良猫の飼い方
□散歩はしてはいけません
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久々に外出したその日、僕があの女の住処に帰ることはなかった。
散歩はしてはいけません
『……ねぇ、きみ。こんなところでなにしてるの。』
薄暗い路地裏を歩いていたら、真っ黒な猫に背後からそう声を掛けられた。
その言葉から察するに、どうやらヒバリは僕のことを捜しにきたらしい。
『あなたには関係ないでしょう?』
『あの子が悲しむから、出て行っちゃだめだって言っただろ。』
……ああ、そういえばあの女に首輪を付けられた日にそんなこと言われたかも知れない。
ヒバリのことなんて一切覚えていたいと思わないから、思い出すのに時間がかかった。
『……そういえば、あなたそんなこと言っていましたね。』
『きみは物覚えが悪いみたいだね。』
『…………。』
ヒバリにそう言われて少しむっとする。
ヒバリは言葉こそ軽い乗りで話しているけれど、視線は鋭かった。あのふざけた女のことが余程大切らしい。
『あの子が、泣きそうになってた。僕はきみがいなくなってすごく嬉しいけど、あの子が悲しそうなんだ。』
『……そうですか。』
『いつもみたいに笑おうとして失敗して、泣きそうになってる。あの子の心が、きみなんかでいっぱいになってる。』
ヒバリは視線を落とし、悔しげにそう言った。
自分がヒバリを苦しめている。そう思うと愉快だったが、心の奥の方がチクリと痛かった。
(その痛みには気付かないふりをした。)
『……だとしても、僕には関係のないことです。』
『……もういいよ、あの子は僕のだから、僕が慰めるし。……でも、』
『なんですか。』
ヒバリは踵を返した。
それから少し間をおいて、視線をこちらに向け、小さな、けれどよく通る声で続ける。
『きみ、ほんとはすごく気になってるんでしょ。』
『は、まさか!』
『……気づいてないみたいだから教えてあげるけど、さっきから耳、ピクピクしてるよ。』
『……っ、蚤がいて痒かっただけです!』
ヒバリは馬鹿にしたように僕を見て鼻で笑い、薄暗い路地裏からいなくなった。
僕は、ヒバリに嫌がらせをするためにあの女のところに戻ることを決めた。
散歩はしてはいけません
家に戻ってやると、案の定女に思い切り抱きしめられ、ヒバリは思い切り顔をしかめた。
(いい気味です!)
あれ……ムクロお前、馬鹿なんじゃないの……?編でした☆←
2匹の会話がこんなのだったら可愛いと思います。ヒトの耳で聞くとニャーニャーですけど(笑)