【純粋な瞳に対する発言 5題】


□2.よし、にらめっこで勝負!
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ロックオンが休暇中に地球に降りた時、たまたま購入した新聞の文化面に、面白い記事が掲載されていた。

最近、経済特区日本では『にらめっこ』という昔からの遊びを参考にした、表情筋を鍛え感情表現を豊かにするエクササイズが流行っているらしい。

1990年代後半に起こったIT革命以降、世界は情報社会に突入し、情報端末用いた顔の見えないやり取りが増え、日本では現実社会での感情表現等のコミュニケーションがうまく出来ない子供が増えつつあるとか。

それを打開するための手段として考案されたのが『にらめっこ』。日本の教育機関の体育の時間の準備体操の一つとして正式採用が決まったそうだ。

ルールは至って簡単。二人一組で向かい合って、表情筋をフルに使って面白い顔を作り、先に相手を笑わせた方が勝ち。

ここにもいるじゃないか。
感情表現に乏しい輩が何人も。


コミュニケーション能力が高いことに越したことはない!

…というか、思いっきり笑った顔が個人的に見てみたい!

「ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

「ミッション開始!ミッション開始!」

傍らにいたハロがとび跳ねながら着いてくる。

「おし、ハロ!俺はやるぜ!!」


通路を進んでいると、早速向こう側からターゲットがやって来る。

ティエリアだ。相変わらず気難しそうな表情でいる。通路の壁面に設置されている誘導バーを掴んでいない方の手には、文庫サイズの本を持ち、此方にはまだ気付いていない。

俺はティエリアに近付き、爽やかに言ってみせた!

「よし、ティエリア!にらめっこで勝負だ!」

「…断固断る。」

「ちょ…、即答かよ…。」

「フラレタ!フラレタ!」

「ハロ、違うから。」

「それ以前に『にらめっこ』とは何ですか。」

「わかってないのに断るなよっ。」

「貴方の考えることは大体くだらない内容の確率が高い。」

「ひでぇ…。」


ティエリアに正直にこのような行動に至った経緯を説明する。

個人的な感情は伏せて。

「ふん…そういうことなら、協調性皆無のガンダム馬鹿にしてやったらどうですか?」

無表情に加えて辛辣な言葉。本当にコイツ何とかしないと…。

「…まぁ、刹那にも試そうとは考えてるけどな。お前さんだって、いつもむすっとした顔しかしてねぇじゃねぇか。」

「そんなことはありません。日本の諺で『目は口ほどにものを言う』という言葉を知っていますか。」

「何だそりゃ。」

「言葉通りの意味です。俺は目だけで全ての感情表現が可能です。他の無駄な筋肉は使用しない。」

「いや…俺、全然見分けついてねーし。」

「貴方こそ情緒が欠けているのではないですか?」

そう言うティエリアの瞳が僅かに細められ、微かに口角が上がる。


「…あ…。」


でもその変化は一瞬で、すぐにいつもの人形のような規則的な顔つきに戻る。

「これ以上は時間の無駄…失礼します。」

そうして再び誘導バーを掴み、ティエリアは去っていった。

「ミッション失敗!ミッション失敗!」

ハロが後方でとび跳ねている。


「…ティエリアの言う通りだ、俺の洞察力が足りなかっただけなんだよな。」


感情表現が乏しいんじゃない、

人より、少し、わかりづらいだけなのだ。

その真っ直ぐな大きな瞳で、
いつも語りかけていたというのに。

俺はどれだけのアイツの感情を取り零してきたことだろう。

そう思うと、悔やまれてならない。

しかしこれからは、絶対に逃したりはしない。

「…今に見てろよ、ティエリア。」

いつの日か、その頑なな表情を、思い切り崩してやるから。



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