【永久に一人 5題】


□1.遠い昔、世界に置いていかれた
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ロックオン・ストラトスとティエリア・アーデは任務のため、王留美が所有する無人島の一つにガンダムと共に降り立ち、スメラギ・李・ノリエガの次の指示が来るまで現地で待機していた。

星は高く瞬き、潮の香りのする生暖かい風が吹き、波が時折岸壁を強く打ち付ける。

島の奥からは囁き合うような虫の音と梟の声。

パイロットスーツに身を包んだロックオンは、波が打ち寄せる岩場に登って通信用端末を取り出し、TV受信モードに切り替える。

丁度報道ニュースが放送されていて、画面には、赤道付近の国で発生した自爆テロの事件現場が映し出されていた。

事件現場となったのは観光地としても有名な街で、多くの観光客や一般市民が犠牲となり、死者数は500人を超えたとニュースキャスターが真剣な表情で伝えている。



大型商業施設であったであろう瓦礫の山から燃え上がる炎は激しく、天まで届きそうな勢いで燃え続けている。
炎の先からは黒煙が立ち上ぼり、周囲に暗雲を拡げる。
大規模な消化活動、担架で次々と運び出される怪我人、泣き叫ぶ子供…

その光景はあまりにも似すぎていた。

ロックオンが全てを喪った、あの日の光景に…。

ロックオンは受信モードを終了させ、端末を握り締めた。

「…クソッ!まだ…変えられないのか、俺達は…。」

激情に流されそうになる自分を落ち着かせようと夜空を見上げると、濃紺の空に高く煌めく数え切れない星達。

そう、それはまさに「満天の星空」。

死んだ者達は星になり、我々を見守ってくれるのだと教えてくれた母。

でも、今の自分には、違うように見える。

「見守って」いるのでは無く、
「見張られて」いるのではないかと。

紛争で、テロで、そして俺達の武力介入によって喪われた命が星となって、空から俺達の行動を見張り続けているのではないかと。


「――ロックオン!」

考えに耽りそうになった所で急に岩場の下から名前を呼ばれ、思わず端末を落としそうになる。

「う…わ、あっぶね〜…。いきなり声かけんなよ、びっくりするだろ。」

ロックオンは声の主――ティエリアに向き直り、抗議する。

「そんな所で呆けている貴方が悪いんです。それより、不用意にガンダムから離れないで下さい。」

岩場の陰になり表情は見えないが、声だけでも十分に機嫌が悪いのが伝わってくる。

「ミッション開始予定時刻まではまだ時間があるだろ?」

ロックオンは岩場から飛び降り、ティエリアと向かい合う。

「それにデュナメスなら俺の相棒に任せてるから大丈夫さ。」

そしてティエリアに向かって親指を突き立てた。…ウィンクのおまけ付きで。


「貴方という人は――もう良いです。勝手にすればいい。但し、ミッションの足を引っ張ったら許しません。」

「ハイハイ了解。…それよりさティエリア、見てみろよ。」

ロックオンは顔を海へ向ける。

「…何をですか。」

「ホラ。降ってくるみたいだぜ?」

腕を伸ばし、星がばら蒔かれた夜空を指差す。

ティエリアも、ロックオンが指差した方角へ顔を向けた。

「…今更。プトレマイオスから毎日見えているでしょう。」

あまりにも淡々としたティエリアの反応に、思わずロックオンは笑いを洩らす。

「情緒が無いな〜お前さんは。」

「情緒など…任務には必要ない。」

ティエリアは夜空に向けられていた視線を下ろし、鈍く揺らめく海を眺める。

ロックオンもティエリアの視線が外れたことに気が付き、ティエリアの横顔を悟られないように窺い、言葉を紡ぐ。


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