N×T

□カミに届く手
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何の前触れもなく「それ」はやってきた。

油断していた。

何故あの時立ち止まったのか。

何故世間話に付き合ってしまったのか。

もう遅かった。

「な…何をする!」

彼は、何を思ったのか私の髪を掴み眺め出した。

「え…あぁ、何かお前さんの髪が気になってな。…グローブの上からじゃよくわかんねぇな。」

そう言いながらハサミを胸ポケットに戻し、両手のグローブを外す。

サイドの毛束を掴まれ、彼はそれを自分の目元に近づけ「不思議な色だな。染めてるのか?」と呟く。

他人の髪の感触が面白いのか、両手で頭を包むようにして何度も髪を鋤かれる。

彼の長い指が地肌を掠めて何度も流れる。

彼の手が耳の側を通る度、指と髪がすれる音が異常に大きく聞こえる。

彼の手から、彼の体温が伝わってくる。

ウ゛ェーダ…

「ちょっ…ロックオン!」

助けてくれ。

こんな暖かいものは知らない。

…恐い。

…これ以上耐えられない。


「悔しい位にサラッサラストレートだなぁ。本当に散髪だけか?ストレートパーマとかかけてるんじゃ…。ん?…ティエリア?」

「…私は」

「え…?」

「私は他人に髪を触られるのが嫌いなんだ!貴様のその行為!万死に値する!!」



パァァァンッ!!



彼がひるんだ隙に
強烈な張り手を左頬に放つ。

私はそのまま振り向かず、逃げ去るようにその場を立ち去った。

「…痛い…。」

素手で思いっきり叩いたせいで、手のひらがビリビリと痛む。


乱れた髪を直そうとして動いた手は…触れることが出来ずにそのまま下ろされた。




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