N×T
□カミに届く手
1ページ/1ページ
何の前触れもなく「それ」はやってきた。
油断していた。
何故あの時立ち止まったのか。
何故世間話に付き合ってしまったのか。
もう遅かった。
「な…何をする!」
彼は、何を思ったのか私の髪を掴み眺め出した。
「え…あぁ、何かお前さんの髪が気になってな。…グローブの上からじゃよくわかんねぇな。」
そう言いながらハサミを胸ポケットに戻し、両手のグローブを外す。
サイドの毛束を掴まれ、彼はそれを自分の目元に近づけ「不思議な色だな。染めてるのか?」と呟く。
他人の髪の感触が面白いのか、両手で頭を包むようにして何度も髪を鋤かれる。
彼の長い指が地肌を掠めて何度も流れる。
彼の手が耳の側を通る度、指と髪がすれる音が異常に大きく聞こえる。
彼の手から、彼の体温が伝わってくる。
ウ゛ェーダ…
「ちょっ…ロックオン!」
助けてくれ。
こんな暖かいものは知らない。
…恐い。
…これ以上耐えられない。
「悔しい位にサラッサラストレートだなぁ。本当に散髪だけか?ストレートパーマとかかけてるんじゃ…。ん?…ティエリア?」
「…私は」
「え…?」
「私は他人に髪を触られるのが嫌いなんだ!貴様のその行為!万死に値する!!」
パァァァンッ!!
彼がひるんだ隙に
強烈な張り手を左頬に放つ。
私はそのまま振り向かず、逃げ去るようにその場を立ち去った。
「…痛い…。」
素手で思いっきり叩いたせいで、手のひらがビリビリと痛む。
乱れた髪を直そうとして動いた手は…触れることが出来ずにそのまま下ろされた。
.