R×T
□声音の螺旋
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プトレマイオス艦内は静寂に包まれていた。
小衛星や兵器の屑が集まる一帯に
プトレマイオスを隠してはいるが、
GN粒子を一定区域内に
飛散させているとはいえ
、いつ敵に発見されるか判らない。
メンバーは交代で睡眠を取りながら
与えられた持ち場につき、
緊急時に備える。
先程ラッセと持ち場を交代し
役目を終えたロックオンは、
連絡通路の誘導バーを掴み
自室に向かっていた。
聞こえてくるのは
誘導バーがスライドする渇いた音のみ。
通路をすれ違う者もいない。
この音を聞きながらこのまま寝られそうだ、
とひとり思う。
「〜〜……。」
「!!」
すっと流れてきた声、
微かに聞こえたそれは、
とても懐かしい響きで。
思わず誘導バーから手が放れる。
しかし、低重力に設定されている艦内では
慣性の法則で身体はそのまま前方に流れていく。
.
「おわっ!」
壁面の柱に左手をつき、身体がつんのめるのを回避する。
丁度そこは、
展望室に続く通路に繋がっていて、
情けない悲鳴が
向こう側までよく伝わったようだ。
「全く…何やっているんだ、ロックオン・ストラトス。」
展望室内から、
CBの制服に身を包んだ
先程の声の主が現れる。
傾いた体勢を立て直し、
壁を一蹴りして声の主ーティエリア・アーデの元へと向かう。
近づく程に、
紫の髪によく映える
緋色の瞳が鮮やかになり、
自然と眼を細める。
「…その歌、何で知ってるんだ。」
正面へ降り立つと同時に
体勢を崩した原因を問う。
「え…?」
「アンタが口ずさんでいたその歌だよ。」
ティエリア自身も
歌っていたことに
気づいていなかったのか、
あ、と小さく声を上げ
指を口許にやる。
.
「…あぁ。そういえば、
彼がよく歌っていたな。」
ティエリアが「彼」という時は、
「ニール・ディランディ」のことを指しているだとか、
最近少しずつ判ってきたことがある。
「何の歌だ?曲名までは知らない。」
「母国の子守唄、だ。」
「ー…そうだったのか。」
そう言うと、
僅かだが緋色の目が見開かれ、
長年の問題が解けたような、
納得したような、
そんな顔付きに変わったような気がする。
相変わらず表情の変化は判りづらいが。
「もしかして、」
言葉を一度切り、耳元に口を寄せる。
「兄さんに子守唄を歌ってもらって、
毎晩眠っていたとか?」
ひゅ…っ、と小さく息を吸う音が聞こえ、ティエリアの身体が強張る。
更に出来る限り優しい声で囁いてみせる。
「何なら、今度から俺が歌ってやろうか?」
その言葉にティエリアは一歩退き、
顔は上げずに言い放つ。
「…ロックオン。
私はそのようなことは
されたこともないし、
今後も必要ない!」
すると左肩をすり抜け、
展望室を出ていく。
展望室に静寂が戻ると、
大袈裟に舌打ちをした。
「嘘をつくんじゃねぇよ…。」
.
兄さんを想う時のティエリアの顔は
…嫌いだ。
だから、俺は見ないようにしているのに、
全身で表現されては
…全く、意味がない。