R×T


□継ぐ想い
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「くそっ…当たれよ…!」












「シュミレーション終了!シュミレーション終了!」

ブゥー…ンという微かな機械音と共に、精密射撃シュミレーションの画像が消え、コクピットのモニターには薄暗いプトレマイオス2のガンダム収容ドッグが映し出される。

「…っはぁ…。」

緊張感から解放され、無意識に深い息が漏れる。

握りしめていたライフル型の専用コントローラーから手を放すと、傍らにいる球状のAIロボットに体勢を向け直す。

「ハロ、結果を教えてくれ。」

「命中率81%!命中率81%!」

「やっと80か…。くっそ…全然ダメだな。」

他の機体とは違い、ケルディムガンダムはハロが操作補助を担当するので、歩行、飛行に関してはあまり不安要素はない。

コクピットの操作盤や操作ハンドル等の基本構造は、どの兵器や機体も共通する所がある。

いずれマニュアル操作が可能になるように訓練は続けているし、勘は悪い方じゃないので時間もそれほどかからないだろう。

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問題は、現在訓練を重ねている精密射撃のシュミレーションだ。

反政府組織カタロンの構成員として、大型のバルカン砲から接近戦時の短刀や体術に至るまで、ひと通りの武器の扱いは心得ている。それなりに自信もある。

しかし、生身と違いMSとなると話は別だ。

精密射撃モードでは、ライフル型コントローラーで敵機に標準を合わせ、引き金を引くだけで良い。

ハロがリアルタイムでケルディムガンダムを操作し、GNビームスナイパーライフルからGNビームを放ち、敵機を撃ち落とす。

ただそれだけのことなのに、なかなか命中率が上がらない。

(コントローラーの動きとケルディムガンダムの反応のごく僅かなズレも、遠方の敵機になるほど標準の差は大きくなる。それを計算に入れて狙うか、それともコントローラーの設定を変更して…)

どちらにしても、時間のかかることに変わりはない。

「兄さんだって、一朝一夕で出来た訳じゃないんだろうがな。」
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(しかし、あともう少しだ。コツさえ掴めれば…。)

コクピットのハッチを開け、ガンダムからデッキに降り立つ。少し遅れてハロもついてくる。

パイロットスーツのヘルメットを外し、乱暴に髪を掻き分けながらまた息が漏れる。

さっさと部屋に帰って一服して落ち着こう。

そして少し視線をあげると、視界の隅に誰かが写り込んだ。

「訓練ご苦労だな。」
広いドッグ内によく通るテノールの声。反響した音は普段にない深みを与える。

自分に向けられた言葉に反応し、今度は正面からしっかりと相手を捉える。

薄暗い室内の中に浮かび上がる緋色の目、髪の色に合わせた紫を貴重とした制服姿。

「ティエリア…。何ですか、可愛い教官殿?訓練の指導でもしていただけるのかな?」

「ロックオン。そういう物言いは控えた方が良いぞ。相手を不快にさせる。」

当の本人は本当に不快に感じているのか、表情に変化はないように見える。
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少し距離が開いているのと薄暗い空間のため、表情は読み取り辛い。

三歩、前に足を踏み出す。

「それは悪かったな、俺は生憎、こういう物言いしか出来ないもんでね。」

「…そうやって、自ら距離を置くんだな。」




そうさせているのはお前たちだろう。




出かかった言葉を飲み込む。

それも予想の内だろう。CBのガンダムマイスター、ロックオン・ストラトスとして、ガンダムデュナメスの機体の太陽炉を受け継いだ後継機、ケルディムガンダムに乗ることは、つまり「兄さん」の代用になることだ。

一卵性双生児である俺と兄さんは、何から何までそっくりに作られている。

赤の他人から見れば、嫌でも兄さんを思い出させることだろう。

死んだ人物なら尚更、だ。

…それでもCBに参加を決めたのは自分だ。

俺の願いを叶えるための力を得たかった。

大きく息を吸い込む。

冷静になれ。
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