novel./z

□a no-passing zone/2
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そこに立っていたのは、ある意味敵より珍しい人物だった。
確か十八才になる、のだったか。
迷彩柄のハーフパンツに編み上げブーツ、フード付きの赤い服に黒いベスト。
長髪を後ろで結び、三連ピアスにストラップ、顔面刺青とくれば、もう見間違えようもない。

「よっ、大将」

「…人識」

「久しぶりだなあ。お、ちょっと痩せたか?
さては恋煩いってやつだな、そのひそめた眉にも握りしめた拳にも色っぽさが見えるぜ。ひゅーひゅー、熱いねえ。もしかして片思いか?だったらさながら百人一首だぜ、ええと、なんだっけ、恋すちょう〜我が名はまだき〜」

…ばたん。
にやついた笑みを浮かべる人識の前で、軋識は思い切りドアを閉めた。「いてててっ手挟んだ!!」という声が聞こえた気もしたが、そんなものは知ったこっちゃない。

「…つーっ…おい、大将開けてくれよ、可愛い子供の冗談だろ?笑って許すくらいの心の広さがなくっちゃやっていけないぜ?」

「ここは関東だっちゃ」

手を打った痛みを引きずる声に、軋識は少しだけチェーンロックをかけたドアを開けて、不機嫌そうに人識を睨む。

「嫌がらせしに来ただけならとっとと帰るっちゃ。俺は忙しいんだっちゃ」

頭の中が桃色日和でハート乱舞なのかよ本当に何考えてやがるこのくそガキ。
以上、この時の軋識の本心だった。

「だから小粋なジョークだって。そんなおっかない目で睨むなよ。……ぞくぞくするから」

「…帰れ!!お前は!!」

いつのまにかチェーンロックを外側から外し、ま、とりあえずお邪魔するぜ、とにやにやしながら平気な様子で家に上がってくる人識に、軋識ははあ、とため息をついた。
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