novel./s&w

□ある日の天界
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「あっゼウス様!!」
「レイ…どうした、そんなに急いで」
「あの…これ」
そういって彼が差し出したのは、不思議な形の食べ物だった。小麦粉をこねて焼いた薄い生地の間に、クリームとフルーツが挟まっている。それが何層か重なったものが、不安定に皿の上に乗っている。
「なんだ、これは」
「『みるふぃーゆ』っていうんだって」
レイがにこにこしながら説明してくれる。
「地上の人たちがおいしそうに食べてたから、僕もまねして作ってみたの。食べてみて!」
「いいのか?私が食べても」
「うん!だって、僕、ゼウス様に食べてほしくて作ったんだもん。食べて食べて」
そんなふうに上目遣いでぎゅうっと袖を引っ張りつつおねだりされたら、どんなお菓子嫌いだって食べてしまうと思う。
それじゃあ、とフォークで一口食べてみる。
「うん、おいしい」
「ほんと!?」
「ああ、とてもおいしいよ。レイには料理の才能があるな」
「えへへ…」
頬を赤らめ俯くその顔はやはりとても愛らしい。
「これからお茶を飲もうと思ってたんだが、レイも一緒にどうだ?」
「えっ、…でも、あの、神殿の中入ってもいいの?」
「レイだけ特別だ」
不安そうだった顔が、ぱああっと笑顔が広がっていく。
「じゃあ、おいで」
「うんっ!」
私が差し出した手をぎゅうっと掴むその手は、小麦粉で白く汚れていた。





[end]
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