文
□旅する二人
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「……そんで、角都がオレと一緒に寝てるってワケ?」
そう言いながら今にも閉じそうな目をして、掛けられた毛布の大半を自分の元へと引っ張り込む。
無意識のその動作は必然的に、同衾する相手までを巻き込んだ。
「やめろ、俺を弾き出すな」
背を向けて丸まる身体に苦言を呈し、奪われた唯一の防寒具を取り戻そうとする。
もとより涼しい気候の山間の、夜の冷え込みは早々無視出来るものではなかった。
人気の無い夜の山道で偶然、夜営中のキャラバン隊と出くわした。
素通りする訳にもゆかず、隊の見張りの者に型通りの旅人の交わす挨拶をすれば、何か暖かいものでもどうかと勧められる。
無論それには丁重に断りを入れ先を急ぐ心積もりであったが、それまで後ろで大人しくしていた連れが我慢の足りさを遺憾無く発揮し、暫しの間焚き火の暖をとる羽目になった。
そうする内に偶然がまた偶然を呼んだのか、今度は表の微かな異変に気付いた隊の主が姿を表し、嬉しくもない旧知の者との再会を果たしたのがほんの数刻前の事だ。
「……」
快く勧められた食事と一宿の床に、子供の様に目を輝かせる姿が最大の敗因だ。俺に非など一つと無い。
食うだけ食って、ろくに飲めもしない酒に酔って寝たままのお前を態々運んでやったのもこの俺だ。
予め示された場所に入ってみれば、所狭しと積み上げた荷物の一角が片付けられ、どうにか一組の夜具が広げられていたのも物理的に仕方の無い話だ。
文句など言える立場では俺達は無い。
「不可抗力というヤツだ、飛段」
毛布を奪い返すのを諦め、最初の話に対する答えを吟味して導き出した。
だが、それに対する反応には、感謝も感嘆も感激も一切含まれてはいなかった。
「ゔ、ぅ〜ん……何だよ角都……意味判んないこと言ってねェで……サッサと寝ろー、バァカ」
「お前な」
自分から聞いておいてその態度は何だ、と思った矢先にバサリと音がし、寝返りを打ってこちらに向き直った腕が伸びてくる。
見ている内にのそのそと毛布ごと腕が背に回され、すっぽりとくるまれた感触が暖かく、心地好い。
「お前な」
瞬く間にそのまま眠ってしまった相手に怒気を削がれ、仕方無しに自分も目を閉じる。
こうして二人で眠るのはどの位振りだろうか。
次の機会が何時訪れるとも知れぬ道行きで、たまには他人の好意も受けてみるものだと思う。
無論、朝になればまた容赦の無いからかいが待ち受けるのは目に見えているが、それさえも甘受出来る程に今は暖かな眠りに捕らわれていたい。
2008/08/24