文
□旅する二人
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うら寂しい山道の先から物音が聞こえ、それは次第に何者かの話す声と足音とに変わってゆく。
「ほう……。随分と変わった夢を見たものだな」
「うー、やっぱりそう言われると思ったぜ! でもさァ、それにしちゃぁはっきり内容まで憶えてるんだけどなー」
声の後からやって来たのは旅人らしき二人連れであった。
一人は背の高い銀髪、もう一人は更に上背のある黒髪で好対象を為している。
月明かりの下、何やら訳ありげな二人は絵にならないでもなかったが、如何せんその間でやり取りされる会話には風情もへったくれもあるものではなかった。
「……それで、その後はどうしたんだ?」
「おっ、やっぱり気になる!?」
「気になるから聞いている」
「やーそれがさー、いや、今思うと何か夢だったかもなんだけどォ」
「何でもいいからさっさと話を進めろ」
段々と苛立ってきたらしい黒髪の、脛当てが付いたブーツの下でバキリと枝が踏み折られる。
「う〜んと、アレだ! バッシャーンってなったとこまで話したんだよな!?」「ああ。暗闇の中を迷っていたら扉があって、そこを抜けたらいきなり水に落ちたんだろう」
「そうそう! それでその水が何でだかすっごく辛くってすごい染みて」
そう言って銀髪は、思い出したように薄紫の目を擦った。
「水が辛い? 夢だからといって何をふざけたことを言うんだ」
「だって実際辛かったんだよ!! でもそれだけじゃ話は終わんねぉッ!」
気を取り直して続けようとした所に水を注され、カッとなって捲し立てる台詞が終わるか否かのところで遮られる。
「大声を出すな。麓まで響く」
突然大きな手に鼻と口を塞がれ、白黒させていた目が手荒な注意に頷く。
「お前、本当に分かったのか」
更に射竦めるような視線と共に念を押されれば、銀髪が乱れるほどに縦に振られた。
それを確認し、漸く口元から外された手はしかし離れず、掴むように乱雑に髪を掻き回す。
「話の続きは何処か落ち着く先を見付けてからにしろ。まあ、有ればの話だがな」
用件は済んだとばかりにあっさりと手を外され、そのまま振り向きもせずに先を行く背には、長剣の柄の先が鈍く輝いている。
ぼんやりとしながら後を着いてゆく足取りは果たして捗りもせず、半ば暗がりに紛れた連れの、急かす声が何度か耳を素通りしていった。
2008/07/10