HERO GIRL

□私とアルバイトと家族
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「助かってるよ、地味子ちゃん」
「ホントですか? ありがとうございます」




バイトもそろそろ終わりを迎える時間
初仕事は緊張したが、とてもいい経験だった

殆どのお客が父だったけど――




「いらっしゃいませー」




自動ドアが開いて、お客さんが入店する
数時間で言い慣れた言葉を口にすれば、見覚えのある人がいた




「あ。晃司」
「本当にバイトをしていたのか」
「うん。誰かから聞いたの?」
「地味子の親父さんから」




え、と固まってると、晃司がコーヒー牛乳のパックを手にレジに来た




「地味子ちゃん? お客さんだよー」
「あっ、はい。すみませんっ」
「もう終わるのか?」
「うん。21時までだから」
「おや。お友達かい?」





店長が晃司を見るなり、少しだけ吃驚した
初めて見る人には、彼の風貌は何処か怯えさせる…らしい
高校生だが髭面で、身体の腕や胸元には和柄の刺青…恐い職業しか思い浮かばない




「は、はは…地味子ちゃん、もう今日は上がっていいよ。お疲れ様!!」
「はい。お疲れ様ですっ」
「地味子、送っていく」
「ホント? じゃあすぐ行くね。外で待ってて!」
「あぁ」




そんな彼と友達だと言う彼女は、にこやかにスタッフルームへ引っ込んでいった
晃司と呼ばれたその男は、目が合うとぺこりと頭を下げて店を出ていく

…あれ、意外と礼儀正しい


見た目では解らないものだなと、店長は彼女の父や今の彼を見てそう思った





「お父さんったら晃司に連絡してきたの?」
「随分久しぶりだったから驚いた」
「どうせお母さんに止められたんでしょ。ごめんね迷惑かけて」




それは正解だと晃司は思う
何度も娘の様子を見に行く内に、外出禁止令を出されたと泣く泣く訴えてきた

丁度コンビニに行く予定もあったことから、彼は二つ返事で了承したらしい




「いや、迷惑じゃない」
「そう?」
「最近は地味子といられる時間が少なかった」
「それは…そうかも」




雨が降る中でのランニングは遠慮していたし、学校内でも姿は見かけても顔を合わすことはない
それに最近は女友達と帰ることが多いから、余計にそう思うのも無理はなかった




「でもさ、もう梅雨は明けるし、夏休み入ったら沢山遊ぼうね!」
「そうだな」
「その前に期末テストあるけど…」




地味子も晃司も言葉に詰まった
それほど頭のよくない二人は、テストの旅に毎回頭を悩ませてきた

勉強は苦手だ、身体を動かすことの方が性に合っている




「休みの日に図書館でも行こうか?」
「それはいい考えだ」
「うん、じゃあ翔瑠も誘っておくね」
「そうだな」




翔瑠もいれば、一緒に居る時間がもっと楽しくなる
三人は常に一緒だったのだから

程なくして家に到着する
十分もかからない距離だが、確かに夜の道は少し怖い
晃司が居てくれて正解だったと、地味子は笑う




「送ってくれてありがとう」
「気にするな」
「よかったら上がって――」

「地味子!? 誰だその男は!」



…静かな夜の時間帯に、その声は近所迷惑だと思った

さっきぶりな父親の登場に、地味子は今日一番の冷たい視線を送る




「何でいるの」
「そろそろ帰るかなーって待ってたんだ! それよりなんだその男は!? 晃司君はどうした!」

「えっ」




父の発言に晃司が驚いたようにそっちを見た




「そ、そ、そんな怖そうな男…父さんは認めないぞ!」
「!!?」
「あー…(ショック受けてる…)」




先日の会話で父の中の晃司がまだ幼い時の物だったと思いだして――溜息を吐く




「お父さん…それが晃司なんだけど」
「えっ」
「あらあら、晃司君」




今度は父が驚いていた
すると。家の中から母が出てきた




「久し振りねぇ。元気にしてる?」
「はい。ご無沙汰しております」
「か、母さんっ!? 何、どゆこと、晃司君って…えっ!?」
「よかったら上がって頂戴。お菓子やスイーツがあるんだけど、食べる?」
「あれ、無視!?」




ニコニコと促す母は、昔から晃司の事を気に入っていた




「でも…」
「その人のことは放っておいていいのよ。さ、いらっしゃい。そう言えばコーヒー牛乳もあるの」
「!」
「(…反応した)」




相変わらず好きな物には目がないようだと、地味子は小さく笑う

それよりさっきから父がとても煩い
近所迷惑だ

とりあえず晃司が家の中に通されれば、リビングでは早速父親の質問攻めが始まった



「ねぇっ、ほんとのホントに晃司君!?」
「は、はい」
「何でそんなでっかくなっちゃったの! 昔は小さくて可愛かったのに」
「晃司君は今でも可愛いですよ」




母がそう言うと、珍しく晃司は照れていた




「それにその髭! 刺青! 吃驚だよ! 何処かのヤのつく職業の人かと…ぶほぉっっ!!」

「お父さん邪魔。はい、コーヒー牛乳」
「あ、あぁ。ありがとう…こんなにいいのか?」
「誰かさんがコンビニで大量に買い込んで来たから、処理に困っていたのよー」
「あ、それさっき買ったやつだ」




自分が買ったものくらい憶えていてほしい
殆どお菓子やスイーツだらけだ
自分はそんなに食べれないだろうと解っていての犯行である




「母さんや地味子がなんとかしてくれる!」
「太っていく妻を見ていたいの、あなた…?」
「こ、晃司君! これも! これもどうだ!?」
「い、いただきます」




それから晃司は、二時間ほど滞在を余儀なくされた
殆ど父による質問攻めでぐったりしていた

ごめんね晃司
明日ちゃんと謝ろう…




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