HERO GIRL

□彼女と初恋と刑事さん
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「先輩。ほら、もう行きましょうよー」
「離せ。まだ話は終わってないぞ」
「いいから帰れ。仕事しろ税金泥棒」
「地味子ってばこっちでも酷い!!!」




当たり前だ
仕事モードでも彼は、父親なのだから

本当に何しに来たの、仕事中でしょ
見回りにしてもこんなとこまでって、管轄外じゃなかった?

暇なの? ねぇ暇なの?
市民の安全を守るのがおまわりさんの仕事じゃないの?

あれ、お父さんって何課だっけ
まあ、正義の味方には変わりないか




「大木さんとはただの友達だってば!」
「ホントに? ホントにただの友達?」
「しつこいなぁ!」




さっきから何度も友達を連呼されて、大木のライフはもうゼロに近かった
泣き出してしまいたいけど、其処はぐっとこらえる。男だから




「そっかー。ごめんね大木君、だっけ? 勘違いしちゃったよー!」
「は、はぁ…」
「偶然『娘に自分の気持ちを伝える誰か』の気配を感じてさー!」
「なんすか、先輩。そのピンポイント…」
「…ははは」




大木はもう笑うことしか出来なかった
それから彼女の父とその部下の人に頭を下げられた
警察の人に感謝されることはあっても、謝罪されることは初めてだった




「ところで晃司君は? 一緒じゃないの?」
「何で晃司が出てくるの」
「じゃあ翔瑠君?」
「何で翔瑠が出てくるの」
「三人いつも一緒じゃーん!!」
「幼馴染なだけ!!!」




もうやだ、この父親…
大木さんや部下の人の前で大いに恥をかかせるなんて、もう嫌いだ!




「あぁ、彼らは元気かい? あれから随分経つけど――三年かな?」
「えぇ、そうですね」
「あ、ごめん…無神経だったかな」
「いいえ。とんでもないです。この人なんか傷口を抉ってきますから」
「え――先輩、年頃の娘に何してんですか。変態ですか。虐待ですか。それとも家庭内暴力ですか。じゃあ逮捕ですね」
「お前!! 俺は一応先輩だぞ!?」
「あははっ。やっちゃえー」




地味子酷い!!と泣くその刑事さんに、この人もよく泣くなと親近感がわく

やがてそのやり取りにも慣れてしまった頃、部下の人が腕時計で時間を確認した




「あ。先輩。そろそろ戻らないと上にバレますよ。娘さんを尾行してた事」
「は?」
「おっと。そりゃやばい。俺が怒られんじゃん! 運転してたのお前なのに!」
「先輩が『先輩命令だ!』とか言って、スピード出させたんでしょ!?」




待て、今聞き捨てならない事が聞こえた気が――




「地味子―。お父さん今日は早く帰れるからね!」
「そうなんですか?」
「いや、先輩は結構書類溜まってるよ。ごめんね…」
「しっかり働いてこーい! じゃないと家に入れないからー」
「よし、帰るぞ!!!!!」
「はいはい…」




慌ただしい二人はパトカーに乗り込んで、車を発進させた
今度はサイレンも赤灯も回らず、超安全運転で来た道を戻っていく

それにホッと安堵の息を、地味子は漏らしていた




「ごめんね、大木さん。恥ずかしいところ見られちゃった…」
「いいえ。そんな事は――」




ほんのりと頬を染め、彼女は謝ってきた




「で、なんだっけ? 何か言おうとしてた?」
「いえ――今日は、いいです」
「そう? じゃあ、ここで。また一緒に帰りましょう!」
「あ、はい…」




ひらひらと手を振る彼女は、背を向けて歩いていった



――え?と、驚く

そっちは…二人で歩いて来た方向だ
それをわざわざ戻るって事は――帰り道は随分前に通り過ぎていた…?



「さ、最悪だ…」



何処までも優しい彼女に、大木は涙した
ついでに言うと、彼女の父親もちょっと怖かった

刑事さんだったことにも驚いたけど




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