HERO GIRL

□私と合宿と一日目
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――最近じゃ、盗撮された写真が堂々とSNSに投稿されている

昔じゃこんな事、考えられなかった
ネットが普及し、携帯を持ち歩き、誰もが手軽に写真を撮ることが出来て、便利な世の中になったけれど――




「…世も末だなぁ」




今日から夜のバイトが居ない為、自然と店長の自分が勤務に入っていた
今頃楽しんでるかな…とよく働いてくれている女の子を思い浮かべる
暇な勤務時間をどう潰そうかと立ち上げたノートPC
適当にネットサーフィンをしていたら、ふと見つけたとあるSNS

そのSNSに投稿された写真は全て盗撮で、投稿者も同じ人
どうやら常習犯なのだと判断はつく
投稿する度に、コメントは大いに沸きあがってまるでお祭り騒ぎだ

女性らしき四人組が際どいスカートで生脚を出して踊っている写真
泥酔した女子高生らしき人物が、堂々と脚をこちらに向けて眠っている写真…など


何処からこんな写真を撮ってくるのだろうと、不思議になるぐらいだ




「お気に入り…? 二枚か」



『お気に入りJK どっちを選ぶ?(笑)』と新たに投稿された写真には、今までの投稿以上の閲覧数と、コメントが多く寄せられていた
茶髪の女子生徒が服を脱ぎかけている写真が――
不思議なことに、彼女は顔をしっかり撮られている
その事に彼女は勿論気づいていないのだろう


そして――もう一枚




「え…」




見慣れたその顔に、ドクリと心臓が波打つ
何で、どうして――


同じく服を脱いでいる眼鏡の女の子
その肩に彫られた刺青はとても意外だったけれど――




「地味子ちゃん…?」




マウスを握る手が震えた
どうして彼女が此処に映っているのか
まさか、このJKって――彼女が通っている高校なのか?

三日間、遠方でが校外合宿があることは聞いていた
今日がその初日だった…
これは、何処で撮られたものだ?




『茶髪の子!』
『眼鏡もイイッ!!』
『大人しそうに見えて刺青とか…』
『胸は茶髪が勝ち!』




様々なコメントが今も尚、多く寄せられている
どちらかを選ぶなんて馬鹿げていた
だが、コメント数が多いのはそれが理由ではないらしい




『これって地味子ちゃん?』
『地味子ちゃんじゃねぇの?』
『マジか。地味子ちゃんがここでもキタ―――――!!!』
『ワル共見てるかー。地味子ちゃんがいるぞぉおおおお』
『じゃあこれって『才源高校』?』
『ミス才源 地味子ちゃん。特定しますた』




コメントが新しいものになるにつれて、『地味子ちゃん』と『ミス才源』が飛び交っていた
それが何を意味するのか、店長には解らなかった

一斉に始まった『地味子ちゃん』祭り
コメント数だけ見れば、その勝敗は明らかだった



とりあえず――彼女が危ない

警察に連絡しようか、それとも本人に聞いてみようか
いや、そんな事をして怖がらせてしまったら駄目だ

誰がこんな事をしたのか解らないが、本当の娘のように大切にしている店長としては、許せない…
ふとコンビニの外を眺めていたら、必死に走っている夜のバイト君を見かけた




「――長谷川君は、どうしてバイトを休んでまで、ジョギングをしているんだろう」




確か、実家に帰るとか言ってなかったかな?
それならバイトに入ってくれればいいのに…あ、お客さんだ

ちりん、と音が聞こえたので、ノートPCを閉じた

彼女がとても心配だが、どうしよう…
誰かに相談しようにも…




「せんぱーい。また肉まんっすかー?」
「この店の味が忘れられねぇんだ」
「地味子ちゃんがくれたからでしょ。娘さんから貰えば何でも嬉しいくせに」

「いらっしゃい――地味子ちゃん?」




聞こえてきた渦中の名前に、店長は聞き返していた
店内に入ってきたスーツ姿の二人
一人は整った顔をしていて先輩っぽい、もう一人はズバズバと物を言う後輩のようだ

この時間に来るサラリーマン風の二人にしては、特別酔った様子もない
それがとても珍しいと思った
居酒屋界隈でこのコンビニに立ち寄るのは、大抵が酔っ払いと決まっている




「ん? おお、店長! いつも娘がお世話になってます」
「は、はぁ…どちら様で?」
「あれ、俺ってば忘れられてる? よく買い物に来てるんだけどなー」




こんなイケメン、一度見たら忘れられないと思う
しかし本当に見覚えのない人だと店長は頭を悩ませた
すると、後輩らしき男の方がピンと来たように口を開く




「先輩、顔を憶えられてないんじゃないっすか? それとも誰だか解ってないとか?」
「えー。それって地味に傷つくー」
「だって先輩、休日にコンビニに来るんでしょ。だったら解る筈ないっすよ。『休日モード』なんて」
「あれ、なんでお前『休日モード』を知ってんの?」




平常時はいつも『仕事モード』だから、このイケメン姿しか部下にも見せていない筈…




「この前、地味子ちゃんが話してました。メッセで」
「なにお前。娘とどういう関係!?」
「いやぁ、思春期の娘さんを持つと大変ですねぇ――で、店長さん困ってますけど」




目の前で繰り広げられるのは、彼女の父親とその後輩の茶番劇だった




「あ、どーも。私はこう言う者です」
「はぁ…って、警察!?」
「先輩、また落としましたよー」
「あっ。大事な娘の写真が…っ!」
「警察手帳出す度に落とすのやめましょうよー」
「だって可愛い地味子の写真だぞ? 人に見せたいじゃないか!」
「先輩、とんだ親馬鹿っすねー」



これが警察…世も末だな





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