HERO GIRL

□俺と刑事さんと再調査
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いつものように早朝の筋トレを終えて家に帰る
シャワーを浴びて汗を流し、母親が作る朝食を食べる
父は今日も仕事で忙しいらしく、朝から居なかった

『盗撮事件』以外にも仕事はあるだろうから、本当に忙しいのかもしれない
何だか悪い気がしたと、空いている席を見つめた




「お父さんが学校に行ったそうね」
「んむ…っ!?」




口にしたトーストをうまく呑み込めなかった
苦しさに胸を叩くと、母がオレンジジュースを注いでくれた

助かった、女神だ!




「またお母さんに内緒にする気だわ…」
「…んぐ。な、内緒って?」
「合宿の件もだけど、お父さんが私にそう言うことをする時に限って、必ず貴女が関係しているのよ」
「そ、そうなんだ」
「昔、貴女に出したお金も、お父さんったら私が聞かなかったら、絶対に話そうとしなかったわ。お父さんが自分のお金で出していたなんて、地味子は知らなかったでしょう?」




父が自分の為に出してくれたお金は、紛失した眼鏡代とこのタトゥーぐらいだ
全て娘の為であり、父はその事を母にすら言ってなかったようだ

いつか返すべきだと思っていたタトゥーの施術費用
バイトを始めた頃にそれを聞いてみたら、母はその出所を全く知らなかったようだ
娘の身体に彫られたタトゥーを見ても、それは無償だと思っていたのだろうか…

いや、父が言いくるめたのかもしれない
そう言う知恵はありそうだ




「どうしてお父さんは学校に行ったの?」
「た、ただの授業参観だよ?」
「嘘仰い。部下の人まで連れて…」
「あれ、なんでそれは知ってるの?」
「部下の人が時々連絡くれるのよ。…お父さんが女子高生に囲まれてましたってきたわ」
「なにそれ。母子一緒に部下の人のお世話になってるの?」



自分が部下の人メッセをしているのは、単に父に知られたくない事がある時に応援に呼ぶと言ったぐらいだ
母とまで連絡を取り合うなんて、部下の人――お父さんが知ったらどう思うかな




「本当に気が利く人ね。きっと正式な捜査じゃない事を心配して、私にまで…部下の人に迷惑を掛けて、全くあの人ったら!」




…母は怒っていたけれど、その表情が穏やかに笑っていることに、地味子は気付いていた

父に対しての怒りは、家族に心配かけないように計らった配慮を理解した上なのだろう
夫婦の絆って奴かな、長年連れ添っているし…今でもらーぶらーぶ?




「地味子。貴女も自分の行動には気をつけるのよ? お父さんが何を思ってるのかは知らないけど――」
「…はーい」




新たに浮上した指名手配犯の存在を思い出して、地味子は朝食を食べ進めた

あくまで想像でしかない筈なのに、どうしてこうも胸がざわついているのだろうか…




その日から、副担の先生の動向を気にする様になった
あくまで父の想像でしかないので、確証はないけれど――やはり、あの落書き写真に似ている気がする

朝、登校したら彼女の姿を見かけたので、思わずその後ろを着いて行ってしまった
当然先生も自分に気が付くわけで――



「…名無しさん?」
「あ、おはようございます。先生」
「はい。おはようございます…」




朝の挨拶をして、先生はにっこりと笑った
うちの担任が見れば、心臓を射抜かれるレベルの微笑みである
この先生を好きになった気持ちが少しわかった気がした…今はちょっと複雑だけどね

目が合うと、微笑まれる
だから微笑み返す…



…こうしてみると、女性なんだけどなぁ
本当に男の人なの? これで?
父親の推理が外れていてほしいと、少しだけ思った


もしかしたら、好きになった人が男かもしれないなんて
とても担任には言えない、酷過ぎだった

指名手配犯云々より、そっちの方が可哀想




「今日もいい天気ですね」
「そうですね…そろそろ涼しくなってきた頃でしょうか」
「そしてだんだん寒くなっていくんでしょうねー」
「その頃にはまた楽しい行事がありますよ。体育祭や期末試験など」
「…期末試験は楽しい行事とは言いませんよ、先生?」




彼女を見れば、ふふっとまたあの微笑みを見せてくれた
冗談だったのかな。ちょっとした遊び心?

副担の先生とは、授業や行事でしかあまり接することはない
どんな人なのか未だに、その人物像が掴めないでいた

うちの担任には、まだ確証がない限りは言わない
父や部下の人が動いてくれているけれど、指名手配犯と言う証拠がないし、盗撮だってまだ疑惑があると言う扱いだ
捜査情報は娘であってもそと易々と教えてはもらえないけれど、進展があるようには思えない
寧ろ難航しているように思えた

捜査は認められていないとも言っていたし
…これは長丁場かなと、地味子は自分の教室を前に溜息を吐いた




「では、先生も職員室に行きますね」
「あぁ、はい…」




先生の後ろ姿を見送る

――この教室に比べて、朝に先生と会った場所からは職員室の方が比較的近い

それでも先生は、職員室に行く途中だったところをわざわざ遠回りしてまで、此処まで来た


偶然だろうか?




「…先生は優しいからでしょ」



その答えを自分自身が口にして、地味子は扉を開けた



「あ、地味子。おはよー!」
「…おはよう!」



沈んだ気持ちすら浮き上がらせてしまう
友達効果は偉大だと思った


全ては父の捜査次第だ
暫くは、私も様子を見ようと思う



でも本当に先生が指名手配犯なら、その時は――





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